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「たっ! 大変です、バクラさん! 今日は2月14日ですよ! バレンタインですよ!?」 「そうだったな……で?」 「で?……じゃないです! 他の世界ではストロベリーだったり、カオスだったりな素晴らしいバレンタインを過ごしているのに…… どうして私達はシリアス真っ只中!?」 「しょうがねぇだろ、現在最大級の山場だぜ? オレ様も脱ぐと早くなる露出狂執務官を、どれほど素晴らしくブチ殺すかを考えるのに忙しいんだ」 「バクラさん……バレンタイン的なことしたいです」 「あ~ん? 興味ねえよ、チビ竜とでも戯れてろ」 「ちょっとで良いんです、一緒に……ね?」 「……しょうがねぇな、付き合ってやるか……」 「はい! ありがとうございます!!」 とまあそんな話があったりなかったりして、この先のお話は本編とは一切関係ないものと明記した上で…… 『キャロとバクラが慌ててバレンタイン的なことをするそうです』 「チョコが売り切れてなくて良かった~」 この頃住み着いたオンボロアパートのキッチンで、身近なスーパーのビニール袋からキャロが取り出すのはまさしくチョコ。 チョコレートと言う正式名称を持つカカオ豆などで生成されたお菓子だ。今日、このバレンタインと言う日には無くてはならない代物。 『で? 誰にやるんだ、ソレ。チビ竜か?』 「え……それは勿論……バクラさんです。日頃のお礼に」 物珍しそうにチョコレートを凝視していたバクラはキャロのそのはにかんだ答えに意外そうな顔をし、呆れたように肩を竦めた。 『オレにくれても食うのはお前の体だぜ、相棒?』 「夢の無い事をいう人ってキライです……」 興味深そうにチョコを狙っているフリードを叱り付け、キャロは湯煎の準備に取り掛かった。 まずは買ってきた一番安い板チョコを細かく刻み、ボールに集めていく。 次に熱した鍋にそのボールを浮かべる形で湯銭していくわけだが、その様子を見ながらまた情緒など読めない盗賊が余計な一言。 「別にそのままでも良いぜ? 喰ったら同じだし」 「貴方はよくても私はイヤなんです……せっかくの思いを伝えるチョコが板チョコなんて」 「キャウ~!!」 チョコレートが良い感じに溶けて来れば当然、香りが辺りに立ち込め始めるもの。 その独特な香りは幼竜の感覚器を大いに刺激したらしく、フリードが大興奮。 何時もは言い付けを良く聴く良い子なのだが、今回ばかりはそれが出来なかったらしく、鍋に飛び掛ろうとする。 「フリード! 危ない…キャッ!?」 ソレを防ごうとした反動でキャロのドジっ子性能がフルドライブ。 何を如何したのか解らないが、チョコが入ったボールが盛大に宙を舞う。 そしてソレがぶちまけられた先は……千年リングの上。 「随分と美味そうになっちまったな」 『すみません……』 呆れたバクラの声に、キャロのか細い謝罪が重なる。 チョコの海から引き上げた千年リングはキレイにコーティングされ、チョコレートで出来た芸術品のようでもあった。 「さっさと洗わねえと固まっちまうな」 『勿体無いですよ!』 「オレ様にこれを食えと?」 『うっ……だったら私が食べますから、変わってください』 「おっおい……」 キャロ自身もチョコレートなどここ最近食べていない もとよりバクラに食べてもらう分と自分が食べる分で半分ずつ、小さなものを二つ作ろうと思っていた。 床の上ではなく千年リングに掛かった部分なら、問題ないだろうと判断したらしい。 貧乏人の根性は健在である。 「はむ……甘くて……美味しいです」 まず三角を囲む円の部分から指で掬い取り、口に運ぶ。指についたチョコは勿論まだ固まりきっておらず、指を舐めるように味わう。 次にパラソルチョコのようになった指針の部分を直接口に入れて、しゃぶる。 その熱心な様子はまるで恋に浮かされたようでもあったりして……板チョコのクセにブランデーでも入っていたのか? 紅く染まった頬と潤んだ瞳、少女らしくない色気を漂わせたキャロ。 「バクラさんの……味がします」 だが……この盗賊はどこまでも雰囲気を読まない。 「そんな味するはずがねぇだろ」 『コレ、死体を溶かして作ったんだが?』といわない辺りがバクラの優しさである。 結論……ラブでもバトルでもなく、バレンタインデーはエロスと言うのを目指してみた。 しかし30分そこそこではどうしようもない。 目次へ
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人は色々な場所で自分が変わる、覚醒するという出来事がある、理系と思っていざサッカーやるとそっちの方が自分にあっていたり、 体育系と思っていたが科学分野で自分の才能を開花させる。だが人間だれしもそう開花できるとは限らない、何故なら自分が何を 秘めているか何て分からないからだ…そしてその能力を戦争で開花させる奴がいる… プロローグ ―――――某管理外世界研究所 「ロストロギア不正使用、ならびに非人道的人体実験の管理局法違反で、貴様を逮捕する!」 クロノ・ハラオウンは老人と思われる科学者にデバイスを向ける。 「我が崇高なる理念が分からぬ愚か者め!」 科学者は叫ぶ!そして科学者はクロノの拘束型魔法によって縛られる。 「そういった下らない理念や理想なぞ、後で存分に言えばいい!こちらクロノ・ハラオウン、 例の容疑者を捕まえた、直ちに連行します」 通信を送るクロノに科学者はニヤリと笑った。 「ククククク、だが我らの崇高なる理想を受けたものはまだ他にもいる!いずれ我々が望んだ悲願を叶える為にな…」 そして科学者は奥歯に仕込んだ何かが入った小さな袋を歯で噛み潰し… 「総統!我等の彼岸実現に失敗した私を許してください!ジークハイル!ハイル…ヒT…」 叫びあげると倒れた。 「いかん!毒を隠し持っていたか!」 「助かるか?」 「だめだ、即効性だもう助からん!」 「クソッ!」 クロノは壁を殴る、ようやく捉えることが出来た犯罪者が死を持って逃げ出したのだ、だがクロノは指示を出す。 「研究所の資料を全部持ち出せ、そしてこいつの研究レポートは絶対に見つけ出せ!」 「ハッ!了解しました」 そして部下を手分けさせ、研究所の資料を押収させる。それにしても…彼の悲願とは何だ?クロノは何かに取り付かれたような笑顔を 浮べ死んでいる老科学者を見つめる…まぁ所詮は下らないものだろう、そう判断し、天井を見上げた、そこには赤地に白い丸に卍を裏返しにした マークが描かれている旗が飾られてあった…。そしてクロノは後悔する、冷静になって研究所を調べなかったことを… ――――研究所 「間に合わなかったな…」 短髪で長身の女性は呟いた。 「ああ」 銀色の長髪で大きいコートがただでさえ低い身長をさらに低く見せている少女も同調するように言った。 「少なくとも護衛のガジェットを派遣していたが」 「相手はあのクロノ・ハラオウン率いる部隊だ、ガジェットだけでは無理だったか」 長身の女性と銀髪の少女は言葉を続ける。 「ドクター」 女性は通信で自分の生みの親を呼び出した、そして白衣を着た紫色の髪をした男性が出てくる。 「どうしたかね、トーレ」 トーレと呼ばれた女性は現状を伝える。 「そうか、彼は自殺したか…ふむ、彼の残した資料はあるかね?」 「分かりません、ですがほとんど押収されていると思いますが」 「そうか、まぁ少しぐらいは探索してくれたまえ」 「了解しました、ドクター」 通信をきると女性は少女と共に荒らされた研究所の探索にむかう。 「やはり、重要資料はほとんど押収されているか」 女性は呟く、その時少女が何かを見つけた、床下にレバーがあったのだ、そして少女はためらわずそれをひいた、 そして轟音がし、床下に階段が出てくる。訝しげな表情をしながらも二人は階段を降りて扉を開いた。 そして女性はドクターと呼ばれる男に通信を送った、そう彼の研究成果と思われる8つのカプセルがありそのカプセルの溶液にそれぞれ男が眠っていたのだ。 ――――某空間 「畜生!姿を表せ卑怯者!」 「ノーヴェ、顔出しちゃやばいッス!」 赤髪の二人の女性は土手の中で暴れていた、そう10対8の勝負でしかも相手は魔法に精通していないド素人のはず なのに…追い詰められていた。この戦いでにすでにセイン、オットー、ディエチ、ディードを失っていたのだ、 そしてディエチは自身が得意とする狙撃攻撃が全く同じ攻撃で返され戦闘不能に陥っているのだ。 「くそ、あんにゃろー、見つけたら真っ先に私の剛拳叩き込んでやる!」 「でも、見つからなきゃ意味ないッスよ」 そうやってやり取りをいるつかの間だった。 「暢気にお喋りか、随分と気楽なものだ」 ゲッとする二人の背後に銃型のデバイスと戦車砲をイメージにしたデバイスを装備した二名の男がいた。 「ゲ!やばいッス!」 「クソ、こうなれば」 赤髪の二人の女性は保持しているISで攻撃を仕掛けようとするが・・・ 「おせーよ」 二人の男性から放たれた攻撃であっけなく吹っ飛ばされる。 研究所で男を発見した短髪長身の女性は歯噛みする、まさか奴らがここまで出来るとは…、すでに四人の妹を失い、そしてついさっき二人の妹も失ったのだ、 奴らは狡猾であり、猟犬のように狙った獲物は確実に倒して行った、そして彼女も、相方と思われるピンク色の長髪をし、両手にブーメラン状の武器を装備した女性に念話を送る。 「見つかったか?」 「いや、見当たりません」 相手はどこかに隠れている、そう思ったときだ、上空から二つの影がこちらに迫ってきたのだ…狙いは…私じゃない!そして短髪の女性は長髪の女性に叫ぶ! 「いかん、避けろセッテ、狙い・・・」 言い切る前に二人の男から小型魔力弾がセッテと呼ばれる女性に振り注ぎ、セッテは被弾に耐え切れず落ちていった。 「クソ!ライドインパルス!」 短髪の女性は自身に搭載されているISを持って二人の男を追おうとした、高高度からの急降下によって速度はついていたが、充分追いきれる自身はあった、 そして追いつき攻撃を加えようとしたが、呆気なく回避される、そして一人の男が自分の背後に回りこむ、女性は自分の迂闊さを呪った、放たれる攻撃、 意識が吹っ飛びかける寸前男性は言った。 「僚機を失った時点で、お前は負けだ」 ――――スカエリッティ研究所 そこの主は今モニターに映っている光景を見て、白衣を着た男性は文字通り目を点にしていた。 何せ自分の傑作作品が呆気なく次々と潰されて行っているのだ、そして最後まで抵抗したチンクも袋叩きにされた。 「敵対勢力に損害なし…完璧にこちらの負けですドクター」 自分の秘書官を勤めている女性は事実を言う、しかし顔は引きつっていたが… 「うそ~~~ん」 ドクターと呼ばれた男はすっとんきょんな声を上げるが、同時に別の思考をする。あの科学者一体どんな奴を復活させたのだ?と、そして老科学者の 研究所にあった生体ポットと共にあった資料にはこう書かれていた ――――プロジェクト・ラストバタリオンと …話は少し遡る スカエリッティという科学者とクロノに捕まって自殺した科学者はプロジェクトFからの知り合いだった、 仲がいいというわけではなく双方とも利用しあう仲だった、そしてその老科学者はある実験を行っていた、 一般人に他から取り出したリンカーコアを植え付けると言う実験だ、だが、この実験は悉く失敗し続けた、 理由?一般人では膨大な負荷に耐えられないのだ、しかしその老科学者はその実験に成功した (まぁ其の過程で膨大な犠牲が会ったのは言うまでもない)それによりその老科学者は悲願の為にかつて自分の故郷であった 世界に戻り優秀な遺伝子を回収し、プロジェクトFならびに、今までの実験で培った実験の総力をあげて悲願成就の為の第1段階を行った、 しかしその企みは結局時空管理局にばれて阻止され→自殺というコンボに繋がった、その成果をトーレとチンクが確保した為、ちょっとした余興でと その第1段階を完成させたのだ。 …話を巻き戻す。 「終わりましたよ、ドクター」 一人の青年がドクターとその秘書官のいる部屋にやってくる、彼から発するオーラは独特のものであった、 そう長きにわたって死と戦争を掻い潜ったような… 「結果は知っていると思いますが」 「…君達の勝ちだな」 「ええ、そうです」 青年は当然のように答えた。 「で、どうだった?」 「筋は悪くはありませんでしたよ、ええと、トーレとチンクでしたっけ?彼女たちも中々のものでしたよ」 「まぁトーレは戦闘能力ではトップクラスなのだがな、全く君達はすごいよ、最初君達の経歴を見た時は疑ったよ…そんな人間がいるものかと」 「しかし、現実にいた」 「そうだな、認めざるえないよ ――――クルト・マイヤー」 ――――通路 「うぃ~~酷い目にあったッス!」 赤い髪の女性の片割れウェンディは至る所が焦げだらけの状態で呟いた。 「ちくしょ~~~あいつら今度やったときいはこの屈辱倍にして返してやる~~~!」 似たような状況のディードも呟いていた。 「やれやれお前たちもやられたのか?」 「「ト、トーレ姉もやられたん(すか)ですか」」 「ん、まぁな」 ウェンディとノーヴェも驚いた、二人ともトーレの戦闘能力が極めて高いことを知っている、 だからこそ彼女が落とされた事実にたいして驚愕した、そして彼女達の隣をガジェットが通る、 ガジェットにはクアットロが乗せられていた、だがそのクアットロはウェデンディ以上にあちこちに黒焦げが出来た上に、 口から煙を吐いて、手足が痙攣したように動いていた。 「クア姉もどうしたんですか?」 「ああ、何でもシルバーカーテンで産みだしたダミーごと吹き飛ばされたそうだ」 「「ゲゲゲゲゲゲゲゲゲ!!」」 驚く二人、だが二人とも内心「ざまぁみろ」とこっそり思っていたりもする。 ―――研究所 スカエリッティ室 「まぁ、汚いだろうが、掛けてくれたまえ」 スカエリッティと呼ばれる男は先ほどの男、マイヤーを自室の呼び出した、そしてビーカーを取り出し、 ブランデーを注ぐ、それに顔をしかめるマイヤーに対してドクターは 「ああ、安心しておけ、きっちりと消毒している」 スカエリッティはビーカーに注いだブランデーを飲み干す、それに安心したのかマイヤーもブランデーを飲み干した。 「全く、とんだ拾物だったよ君達は」 「はぁ」 「思い出すよ君たちが目覚めた時・・・」 「な、何で私が生きているんだ、とうかここはどこ!」 生体ポットから蘇った時、マイヤーは真っ先に叫んだ、そして復活した7人の男も似たような声を上げていた、 そしてドクターが何故目覚めたか、そして老科学者との繋がりなどを話した時だった。 「「「「あんのクソ爺!まだ第3帝国の残滓を引き摺っていいやがったのか!」」」」 「どうりで俺達の血液とか寄越せ寄越せ五月蝿かった訳だ!」 そして二人の男が叫んだ。 「「俺はフィンランド人だ!何でまたナチに協力しなきゃいけないんだ!」」 「「「「「「「「うがぁ~~~勘弁してくれ~~~!!」」」」」」」」 そうだこうだの騒ぎがあった、まぁ色々なゴタゴタがあって、スカエリッティの事を「変態博士」呼ばわりして さらにナンバーズを見てスカに対して集団リンチを加えたりしたのたが、何時の間にか8人の男性はスカエリッティファミリー の一員になっていった。 「君はあの老科学者の事知っているのかね?」 「ええ、知っていますよ、旧ドイツ第3帝国のフィンランド系ドイツ人の科学者、一時期オデッサと言う組織で活躍していましたが、ある日ばったりと居なくなった…」 「ふむ、資料を読んで君は彼が何を考えているのか分かったかね?」 そして吐き捨てるようにマイヤーは言った。 「第3帝国の復興、其の為尖兵となるクローン兵士作り、そしてアドルフ・ヒトラー総統の復活…おおまかそう言った所でしょう」 「ふむ、君にとって歓迎すべきことではないのかね?」 マイヤーの目を見てスカエリッティは自分が迂闊なことを言ってしまった事が分かった。 「確かに彼のおかげで祖国は復興しましたよ、ですがね、今更第3帝国の復興?冗談じゃありませんよ、 少なくとも復興した祖国が戦禍に巻き込まれるなんてもう勘弁願いたいですよ」 「そうか、すまなかったな」 珍しくスカエリッティは謝った。 「では、君たちはこれからどうするかね、リンカーコアを植えつけられた死者にして生者、いやクルト・マイヤー」 「まぁ今の居場所がここにしかないから…まぁ彼女達を鍛えるのも悪くはありませんよ」 「そうか…」 ―――後日 「君達にもバリアジャケットが必要だ、だから…」 スカエリッティはナンバーズが身につけているあれを取り出した、そして8人の男たちの顔は凍りつき…そして… ―――廊下 ウーノとチンクは歩いていた、チンクは不機嫌な顔をしていた。 「くっそ~~~~あいつら」 「どうしたのチンク」 「あいつら、発見者に対する敬意が微塵もない」 「姉と言っても確か彼らの方が長く生きているはずじゃ」 「それもそうだけどな、あいつら揃いも揃って私のことを『ああ、悪いちっこくて見えなかった』だの 『姉?おいおい、お前のようなまな板のチビが姉だって?姉と言うのはトーレやウーノみたいな奴が言うんだぜ』 とか『お前、好き嫌いはしちゃいかんぞ、背が伸びないからな』だとか、私が一番気にしていることを言いやがって! 私だって好きでこんな体しているわけではないし、好き嫌いもしてないし、そして…毎日牛乳飲んでいるもん!」 それに微笑を浮かべるウーノ。 「うわーん、ウーノ姉にまで…」 「御免なさい、チンク」 「ああ、そうだ、ドクターは?」 「ああ、あの8人のバリアジャケットを…」 「なぁそれってまさか…」 そう言った時である、スカエリッティが居る部屋から、一斉に何かが殴られる音が聞こえて… 「ご、御免これし(ゴス)、でもデザインは(バキ)、防御力も(メキャ)、性能も(グチャ)、本当だっ(ボカ)、ゆ、許してぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」 スカエリッティの絶叫が響き渡る。 「…救急箱必要かな?」 「いや、むしろ病院だな」 まぁ結局軍服をモデルにしたBJにしたそうな。 幾日が過ぎた――― 「うぃ~~~、訓練疲れたッス!」 「あいつら本当に容赦ないからな」 「まぁそれで私たちが強くなるからいいと思うけど」 「・・・・・・疲れた」 至る所傷だらけのナンバーズ達はうめいた、そうあの8人の男達が彼女らの教導官を勤めてから毎日過酷な日々を送る羽目になった、 まだトーレやチンクやセインなどは良かったが、悲惨なのはウェンディ、ノーヴェ、ディードとか新人(セッテはトーレの影響を受け継いだお陰で酷くはなかった) ナンバーズだった、8人も教導官が教えたこと、それは徹底したチームワークだった、個々の能力を闇雲に使っているだけでは意味がない、ならその能力を上手く 連携して使えば総合的な戦力が上がると…まぁそんなこんなでウェンディ達の戦闘能力や仲間達の信頼も上がっていった、ちなみにクアットロも段々丸くなっていたりもする、 何せしょっぱなからマイヤーに「猫かぶりも大概にせぇよ」と言われた上に、同じく訓練でルーデルと男に毎回悲惨な目にあっていたから。 ――――ウーノの個室 ウーノはベッドの中で目をあける、目に入った光景、そこには綺麗な肉体、適度な筋肉と余分な脂肪が一切ない体、熟睡している男とは何時間か前には熱く融けていた…。 何故…彼に惹かれたのだろうか?ウーノは思った、あの時チンクとトーレが拾ってきた生体ポットから真っ先に目覚めた男、その目は優しさと厳しさを持ち、そして何より 世界や人の汚さを沢山見て行った目…そして望んで復活したわけでもないのに自分の妹達の身を心配し、自ら教導という立場で鍛えて行った背中、本当はドクターの為に駒に 過ぎない自分が…と思ってしまう、だがドクターもそしてこの男も駒と言う言葉に拒絶反応を示した。そしてその男はやさしげな顔で言った「君は人間だ」と…それからかもしれない …ウーノは微笑むとその男の温もりに身を委ねた、自分とは違う立場、いつかは別れなければない…だけど、今はほんの一時の幸せに身を委ねるのも悪くはない… 再びウーノは目を閉じた、しばらくこうしてもらいましょう…マイヤー。 ――――研究室 「いいのですか?」 クアットロとトーレはさっきまでウーノとマイヤーがしていることについてドクターに問うた。 「別にいいと思うけど」 スカエリッティは素っ気無く言った。 「少なくともそれだけの自由ぐらい与えるし、君達だって別に構わないが…」 「はぁ」 「大体、私が仮にも娘のプライベートに突っ込むように見えるかね?」 「「見える(しかも盗聴してそう)」」(即答) 「き、君達私をそんな目で見ていたの?(してねーよ)」 「「うん」」(即答) 「ひ、ひでぇ」 「ん?ウーノ姉とマイヤーさんがどうかしたんスか?」 ウェンディは何を話しているのか分からなかった。 「いや、お前が知るにはまだ早い」 「そうですわね、ウェンディはまだまだオコチャマですから」 「クア姉子供っていうなッス!」 ――――教導団達 「出動が決まった」 クルト・マイヤーは7人の男達の中心にして話す。 「ようやくか…」 「目標は?」 「発見され、時空管理局に回収されたレリックの奪還、回収に向かったガジェットは全滅したそうだ」 「ということはかなり上級ランクの魔法使いが居ると言う事ですね」 「ああ、そうだな」 マイヤーは真剣な表情で言った。 「この作戦に参加するのは自由だ、参加するということは…」 「時空管理局に喧嘩を売ると言う事ですね」 一人の男が発言する。 「ああ、そうなる」 だが7人の男はみな同じ考えを持っていた。 「「「「「「「志願します」」」」」」」 ほうと呟くマイヤー。 「いいのかね?」 「ふん、どうせ我々は一度死んだ身、そして我々は今スカエリッティという場所に所属している身なら、その義務に答えるべきです」 「そうか…分かった、だが使用する魔法はすべて非殺傷、万が一に供えて殺傷式を持っていくがね、まぁ我々は古き遺物、 古きものが新しき者の未来を奪う事は極力避ける、いいな」 一斉に男達は立ち上がり敬礼する。 ――――転送ポート 「ではパンツァー・レーア(装甲教導団)行って来ます」 8人の男達はスカエリッティやナンバーズに向けて敬礼する。 ――――某世界 「レリックの確保に成功したか、さすがはクロノ、君のお陰でガジェットの殲滅に成功」 「煽てるなよヴェロッサ、まぁさっさと仕事終わらせて帰りたい」 ――――某世界、ちょっと離れた場所 「全員配置に付きました」 連絡が入る、そしてマイヤーの傍らにいる男が呟いた。 「奴ら勝ったつもりでいますよ」 「そうか…なら教育してやれ!」 マイヤーがそう指令すると男達は行動に移る…。 ――――聖王教会 「・・・管理局は滅びない、しかし大いなる困難が立ちふさがるだろう、勝者には栄光ある勝利が、 敗者には生以外すべてを失う敗北が・・・」 カリムは呻いた、何が起きようとしている? 装甲指揮官:クルト・マイヤー 黒い悪魔:エーリッヒ・アルフレッド・ハルトマン 300機撃墜の片割れ:ゲルハルト・バルクホルン 不屈なる殲滅者:ハンス・ウルリッヒ・ルーデル アフリカの星:ハンス・ヨアヒム・マルセイユ 鋼鉄の虎:ミハエル・ヴィットマン もう一人の白い悪魔:シモ・ヘイヘ 不動なる抵抗者:レミ・シュライネン 史実に存在した8人の男達によって歯車は大きく変わり始める… リリカルなのは ストライカーズ パンツァー・レーア 1話:滅びたもの者へ捧げるセプテット 時空管理局そして高町なのは達にとって最悪の日が訪れる… 目次へ 次へ
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今から150年以上前…あらゆる次元世界に戦いが蔓延していた頃、ミッドチルダに三人の魔導師が存在した。 三人の魔導師は、ミッドチルダ南西部のとある地方において謎の石を発見する。 その石は真っ二つに割れたかのように欠けていて、外見はただの石であった。 …しかし石の内部には謎のエネルギーが残留しており、更にそのエネルギーを解析すると、 エネルギー内には魔法技術や質量兵器技術、果ては様々な世界の歴史など膨大な知識が保存されており、 中には伝説級のアルハザードの技術や情報、神話級の魔法技術や情報が蓄積されていたのである。 …これらの情報を知った三人の魔導師は、ある野望を抱く事となる。 この情報と技術を応用・併用すれば、この次元世界を纏め上げ事すら不可能ではない。 それは正に神の所業、つまり我々は神になる事が出来る… 三人の魔導師は互いに協力し合い、神になる為の道を歩み進む事となった… リリカルプロファイル 第二十八話 角笛 …その後、三人の魔導師は石の情報を基に次元世界を纏め上げ平定、 75年後にミッドチルダに時空管理局を設立し、三人は最高評議会と名を変え表舞台から姿を消す。 設立から月日が経ち、石を中心とした巨大なデータベースを保有した超巨大次元船を設立、 その後次元船は本局と名を変えデータベースもまた無限書庫と名を変え現在に至るのであった。 そして現在…ミッドチルダに東部の森に存在する洞穴の前に三人の人影が存在する。 ヴェロッサ、シャッハ、アリューゼである、彼等はなのは達がセラフィックゲートに向かっている頃 スカリエッティの居場所兼ラボである聖王のゆりかごへの潜入と魔法技術のルーンを解除の為に、 ティアナによって齎されたディスクの情報を頼りに此処へと赴いたのである。 「…しかし来たのはいいが、どうやって潜入する?ルーンって奴で存在次元を曲げられてんだろ?」 「勿論、此方にもそれなりの用意はあるさ」 アリューゼの疑問にヴェロッサは答えると、懐から液体が入った二つの瓶を取り出す。 ルシッドポーション、これは無限書庫に記載されていたルーンの情報を基に、一時的に存在次元をずらし透明にするものであるという。 つまりはルーンが起動している時と同じ現象を作り出す代物なのだが、効果は五分程度であるのが弱点であると付け加える。 「でも五分もあれば僕のレアスキルで潜入することは可能だからね」 そう言うとヴェロッサの下に半透明の猟犬が多数姿を現す、ウンエントリヒ・ヤークトと呼ばれるヴェロッサの魔力を用いて 目視や魔力深査に対し高いステルス性を誇る猟犬を作り出すレアスキルであり、 更にコンピュータにアクセスしての情報収集や、障害物を通り抜けたりする事も出来るのである。 そして今回はルシッドポーションを猟犬に振りかけることで、効果を与え侵入を可能とするものであった。 「でも…君が潜入するとはねぇ」 「何だ?まだ文句があんのか?」 …本来アリューゼはこのような任務は得意ではない、寧ろシャッハの方が能力的に適している。 しかし今回はアリューゼたっての希望でヴェロッサ達に嘆願し、シャッハに代わって潜入する事になったのだ。 「まぁいいさ、とりあえずがんばって」 ヴェロッサは一つ挨拶を交わすと開始時間となり、アリューゼは受け取った瓶の中身を飲み干し ヴェロッサは猟犬達に振りかけると徐々に姿を消し見えなくなる。 だが本人達は消えた事が分からないようなのであるが、五分しか保たない為に急いで洞穴を通る。 …比較的長い洞穴を駆け足で抜けると広い空洞に当たり、中には巨大な船の姿がある。 「これが…ゆりかごか……」 〔惚けてる時間はないよ〕 猟犬からヴェロッサの窘める言葉が響く中で、入り口らしき場所を見つけると 猟犬は早速ハッキングを仕掛け、直ぐに扉を開けると飛び込む形で乗り込み直ぐ様扉を閉める。 「大丈夫なのか?」 〔うん、痕跡は残していないからね〕 直ぐにバレるようじゃ査察官は務まらないと猟犬から笑い声が響く中で、 ヴェロッサは直ぐに真剣な口調へと変え此処から先は二手に別れようと提案する。 自分は引き続きルーンの解除とスカリエッティの居場所の詮索 アリューゼはアリューゼが望む事をしてくれと説明を終える。 「気付いていたのか……まさか!てめぇ思考捜査を!?」 「…君は簡単に顔に出るんだよ」 嘆願の頃からアリューゼは何かを胸に秘めていたのが分かっていた、だからシャッハも快く代わってくれたと話すと 頬を掻いてばつの悪そうな顔をするアリューゼ、それを後目に猟犬はゆりかごに放たれ、 アリューゼもまた自分のすべき事の為、先に進むのであった。 場所は変わり翌日の朝、此処はミッドチルダ北部聖王教会から更に北に位置する雪に覆われた巨大な山 此処は年中雪に覆われており、梺の村では大雪山と呼ばれている場所でもある。 その極寒の地の奥にある木々が大茂る森の中に、一カ所だけ切り取られたかのように草木が生えていない場所がある。 其処には青い線で描かれた魔法陣が刻まれており、その前に一人の女性が立っていた、メルティーナである。 メルティーナは無限書庫の情報によりこの場所を知り、なのは達を送った後此処へ赴いたのだ。 そしてメルティーナは徐に魔法陣に手を伸ばし触れると、無限書庫で得た詠唱を始める。 「…極寒の地にて眠りし冷厳なる魔狼よ…我が前に姿を現せ!!」 すると魔法陣が輝き出し、中央から巨大な狼が姿を現す。 メルティーナが呼び出した狼は、かつてこの地域で信仰されていた伝説の狼なのであるが 傲慢な態度と我が儘な行動で誰にも従わず好き勝手に暴れまわり、 結果的に人々から畏怖の念で見られ此処に封じられた存在なのである。 そんな狼の体は大きく氷のような青い体毛に覆われ、首下には金色の首輪が付けられており、 目は赤く輝き口から白い息が漏れ出す中で、狼はメルティーナに問い掛ける。 「俺を呼び出したのは貴様か?」 「そうよ、私の名はメルティーナ、率直に言うわ、アンタの力が欲しい!!」 メルティーナは狼に指を指して答えると、狼は大声を上げて笑うとメルティーナの申し出を断る。 狼曰く…俺は俺の為に生きており、誰かの…ましてや女に使役されるつもりは無いと、傲慢に満ちた表情で答える。 だがメルティーナも負けてはおらず徐に左手を狼に見せると其処には、金色の絹糸のような紐で出来た腕輪が付けられており、 その腕輪を見た狼の表情が一転する。 「貴様!何故それを…グレイプニルを手にしている!!」 メルティーナが身に付けている腕輪の名はグレイプニル、狼の首に付けられた金色の首輪と同じ材質で作られた封印の切っ掛けとなった代物である。 …かつてこの地を訪れた高僧が片腕と引き替えに取り付けた物で、この腕輪を身につけた者に逆らう事が出来ず それにより狼は封印され、腕輪はこの地に安置されていたのだが、管理局が腕輪をロストロギアと判断した為、場所を本局へと移し 永らく本局の保管庫内で埃を被っていたところを、無限書庫の情報によって知ったメルティーナがパクっ………借りたのである。 「これさえあればアンタは私に逆らえない!」 メルティーナは狼以上に傲慢な態度で挑むと歯噛みしながら睨み付ける狼。 しかしどれだけ悔しがってもメルティーナに逆らうことは出来ない 何故ならグレイプニルは狼の動き全てに作用し、封じられ果ては意志に背いた形で動きを操られしまうからである。 それを知っているからこそ、メルティーナはあの様な横柄な態度をとれるのである。 ……尤もメルティーナ自身の度胸も関係してはいるのではあるが…… 「ぬぅ……仕方あるまい…しかし!寝首をかかれる覚悟はあるのだろうな!!」 「ウルサいわね!アンタは私の飼い犬になっていればいいのよ!!」 狼の威圧もメルティーナは横暴な態度と言葉で一刀両断し 口を紡ぐ狼を見て更に見下すメルティーナであった。 場所は変わり此処はゆりかご内の施設、中ではナンバーズ達が最終決戦に備えて模擬戦を行っており、 その中には戦闘スーツで身を飾ったギンガの姿もあり、すっかり馴染んでいる様子であった。 「では各自励むように…以上!!」 トーレの掛け声を合図に解散するとチンクとトーレは最後の調整として話し合い始め ギンガはディエチと共に食堂へと赴こうとしていると、そこにノーヴェとウェンディが姿を現す。 「どうしたの?二人とも」 「二人に質問ッス!どうやったら二人みたいなコンビネーションが出来るんッスか!!」 今回の模擬戦の中でギンガはディエチと組み、ノーヴェはウェンディと組んで行った。 結果は一目瞭然でギンガの動きに合わせてディエチはウェンディの動きを牽制 ノーヴェは真っ向勝負をかけるが、ギンガの動きはフェイントで、実はウェンディを狙っており ノーヴェはすぐさま追おうとしたところをディエチに出鼻を挫かれ ウェンディは焦りながらエリアルショットにてギンガを迎撃しようとするが難なく回避 ライディングボードごとウェンディを叩き付け吹き飛ばし、一方でノーヴェはディエチの下へ向かおうとするが、 ディエチは既にイノーメスカノンからスコーピオンに持ち替え迎撃、ギンガ達の勝利で幕を閉じたのである。 二人の息の合った動きと更に言えばギンガの能力はノーヴェと酷似している為に、参考として聞きに来たのである。 すると二人の向上心に感心したギンガは快く応じ、その中で休みたいのに引っ張り出されるディエチであった。 その頃レザードの自室では席に座ったレザードがナンバーズ達とギンガの仕上がりを確認していた。 仕上がりは良好で、特にギンガの洗脳は今までゆりかごで暮らしていたかのように順応しており、 順応こそが最大の洗脳効果である事を証明していた。 一方で戦闘面での仕上がりも良好で並の魔導師や不死者では相手にならない程まで成長している…と践んでいると、 後方から助手であるクアットロが資料を持って話しかけてくる。 「博士!強化型の不死者の量産の目処が付きましたよぉ」 「それはよかった、では見せて貰いましょうか」 レザードはクアットロが手にした資料を受け取ると流し読みする。 資料にはドラゴントゥースウォーリアを始め、自爆を主としたウィル・オ・ウィスプ、後方支援に適したイビル・アイ、 三体の獣を合成したパラミネントキマイラ、高い回避率を持つグレーターデーモンなど 今までとは全く異なる強力な不死者の量産成功が綴られており、 流石のレザードも眼鏡に手を当て喜びの笑みを浮かべ、それを見ていたクアットロもまた笑みを浮かべていると レザードのデスクのモニターに目がいき、つい質問を投げかける。 「博士?これは?」 「ん…これですか?対エインフェリア用の強化プランですよ」 三賢人が造り出したエインフェリアは高性能で、多数の不死者で相手をしたとしても焼け石に水の状態は目に見えている、 その為、質に対し量で適わぬのなら質を上げるしかないという考えに至ったレザードは、 スカリエッティと共同でナンバーズのレリックウェポン化を決定したのだという。 かつてレリックウェポンに使われているレリックは危険なロストロギアであったのだが 二人のレリックウェポンやベリオンなどのデータにより、安定した魔力を供給することが出来る 安全な高エネルギー資源へと生まれ変わった為、今回の強化プランを実行出来たのだという。 レリックによる強化は身体強化が主なのであるのだが、 トーレはインパルスブレードの出力強化、チンクはヴァルキリー化の際の能力向上 セインはフィールドを用いた対消滅バリアを展開し、バリア・フィールドに覆われた場所もダイブする事が出来るようになり セッテはブーメランブレードをクロスに重ね手裏剣のような形で投げれるようになった事と、回転速度・精密度などの向上 オットーは更なる広域攻撃化と結界の強化、ノーヴェは失った右足の強化と 両足に加速用のエネルギー翼を展開する事でA.C.Sドライバークラスの突進力を実現させ ディエチは超遠距離の精密射撃の実現と弾頭の軌道操作能力 ウェンディはセインと同様の対消滅バリアをライディングボードに展開させる事が出来るようになり ディードはツインブレイズのエネルギー刃を伸ばすことが出来るようになり、四階建てのビルなら両断出来る程の能力などが加わるのだという。 「へぇ~それで博士私は?」 「……貴女は前線に出ないでしょう?」 クアットロは不死者及びガジェットの操作・制御を主にしている故に 強化プランは必要無いと肩を竦め答えるレザードに対し、心なしか残念そうな顔をするクアットロであった。 場所は変わりスカリエッティの研究施設では、ゆりかごの調整に勤しんでいた。 そんな施設の中で二つの似つかわしくない物が存在している、 一つは左手用で指先が鋭い金属で出来たグローブ型のデバイスと 刀身が艶のある黒に禍々しい印象を感じる飾りが付いた鍔と片手用に短くなった柄の片手剣である。 剣の名は魔剣グラム、かつて手に入れた妖精の瓶詰めを基に錬金術により変換した オリハルコンを材料に造られた剣型アームドデバイスである。 恐らくこの世界で、レザード以外にアーティファクトを元にしたとはいえ、オリハルコンを作成したのはスカリエッティだけであろう。 そしてもう一つは防と縛に特化したアームドデバイスで、此方は流石にオリハルコン製ではない。 その二つのデバイスを目にしたウーノはスカリエッティに質問を投げかける。 「ドクター?これは一体……」 「あぁ、私専用のデバイスだよ」 今回の戦闘は総力戦といっても過言ではない、自分が育てた“愛娘”達が負ける事はないと思うが 万が一乗り込められた場合を想定して造ったと語ると ウーノは胸に手を当て大声を上げてスカリエッティに訴えかける。 「大丈夫です!もし攻め込められたとしても、私が命を懸けて―――」 「いや…ウーノにはもっと重要な任務がある」 そう口にすると突然席を立ち、徐にウーノの唇に優しく手に掛け顔を近づけ、スカリエッティの突然の行動に顔を赤らめ目線を逸らそうとするが、 スカリエッティの澄んだ瞳を避ける事が出来ず、じっと見つめ続けているとスカリエッティは静かに甘い吐息混じりで言葉を口にする。 「……私の子を孕め」 ウーノは他のナンバーズ、特に初期の三人の中で体の作りは人に近く、子供を孕む様に出来ている。 それに…もし自分が消える事になった場合、自分が生きた“証”を残しておきたい。 その一つは“歴史”であり、もう一つは“遺伝子”である、 そして“証”の内の一つである“遺伝子”をウーノに受け取って欲しいと告げる。 ウーノはスカリエッティの言葉を一字一句聞きながらもその瞳は逸らさず 話を終える頃にはウーノの瞳は妖美に満ち、徐に上着を脱ぎ捨て、たわわに実った果実を晒し出すと スカリエッティに抱き付き、更に首に手を回して見つめ合うと、甘い吐息を吐くのように応えるウーノ。 「…私の体はドクターのモノです……」 その妖艶な笑みと口調にスカリエッティの理性が飛び、口付けを交わしながら実った果実に手を伸ばし 倒れ込むように押し倒して、二人の濃密な時間が流れ始まるのであった…… 場所は変わり翌日の夜、聖王教会の会議室に対策本部を設置したクロノはユーノを始め本局、 ゲンヤを始めとした地上本部と共に今後の対策を練っていた。 しかしその面子の中にカリムの姿はなかった、彼女は自室にて翻訳された予言を読み返していた。 予言の大半を読み返していると一つの文に目が行く、それは―― “神々と死せる王が相対する時、神々の黄昏を告げる笛が鳴り響く”である。 神々とは恐らく神の三賢人の事であろう…しかし死せる王とは一体誰のことを差すのであろう… 歪みの神はレザード、無限の欲望はスカリエッティというのは、既に明らかにされている。 今回の事件の張本人達が次々に明らかにされていく中で、死せる王が誰なのからない… 故に不安は未だ拭えず眠れぬ夜が続いているのであった。 翌日の昼、今日も朝から議論が交わされている中で一報が届く。 それは神の協力を得る為に向かったなのは達機動六課前線メンバーが、今し方帰ってきたというものである。 その一報を聞いた対策本部はざわめき始める、なのは達は神の協力を得られたのか?それとも敗北による撤退だったのか? いずれにしろ報告する為ここに顔を出すだろう…クロノがそう考えていると対策本部にノック音が響く。 クロノは返事をするとなのは達が部屋へと入り、その顔は今までとは異なる程自信に満ちていた。 その表情に淡い期待を胸に秘めながらクロノはなのは達に問い掛ける。 「先ずは無事に帰って来て何よりだ……それで神の協力を得られたのか?」 するとなのはとフェイトは互いに目を合わせ頷くと、腰に添えてある杖を見せる。 この杖は神の協力を得た証拠であると話すと、対策本部は一斉に沸き立ち 歓喜に満ちる中でユーノがなのはに抱きつきながら激励を込める。 「やったね!なのは!!」 「ちょ!?ハシャぎ過ぎだよユーノ」 そう言ってなのはは顔を赤らめ照れていると、その様を見たはやてが出発前の事を思い出す。 …そうだ!無事生還したらなのはと共にお祝いの赤飯を炊かねばならんかった… はやては歓喜に満ちた対策本部をこっそり抜け出して、食堂にある厨房へと赴く、 そして暫くすると対策本部には赤飯に鯛の尾頭付き、更にビフテキにカツカレーなどがズラリと運ばれて来た。 今回の祝杯と今後の栄喜を養う為に、はやて自らが腕を振るい更に監修して用意したようである。 対策本部は一時宴会場と変わり、飲めや歌えやの大騒ぎとなっていた。 翌日、場所は変わりスカリエッティの指揮の下、ゆりかごの最終チェックが行われていた。 ゆりかごは当初、激しく損傷していたのだが、長い時間をかけて修復を完了 そして動力炉に繋がれた聖王の遺伝子を所有したベリオンによる動力炉の起動確認も完了し、 更に余ったレリックを使う事で動力エネルギーを手にする事が出来た。 後はこの最終チェックを完了させればゆりかごを起動させる事が出来る、 すると其処にレザードとクアットロが姿を現す、レザードの方は既に準備が完了しており、 後はスカリエッティの演説と“ゆりかごの主”の合図を待つばかりであると。 その時である、いつもいる彼女がいない事に気が付いたレザードはスカリエッティに問い掛ける。 「おや?ウーノの姿が見当たりませんが?」 「あぁ、ウーノは船を下りたよ」 スカリエッティは最終チェックを行いながら淡々と答える。 ウーノには重要な任務を与えた、しかしそれは此処ゆりかご内で出来る事ではない為 彼女を船から降ろし任務に専念して貰ったのだと語る。 その為、ゆりかご内の防衛及びガジェット・不死者の官制はクアットロに全て任せると告げると ウーノの代わりとはいえ責任ある任を受け、笑みを浮かべ喜ぶクアットロを後目に、逆にスカリエッティが質問を投げ掛ける。 「ところで“聖王”の方はどうなんだい?」 すると眼鏡に手を当て不敵な笑みを浮かべると話し始める。 “聖王”には“聖王”としての自覚を持たせ、更に王の印たる二つのレリックを取り付ける事により、 “聖王”として完成を迎え、今はゆりかご内に存在する王の間にてその時を待っていると。 …ただ、今の“聖王”はかつての姿とは異なり“貫禄”が身に付いていると語る。 「ほう…それはすばらしい、では早速行こうか」 レザードの会話の中で最終チェックを済ませたスカリエッティは席を立ち、 王の間へと向かうと、あとに続くレザードとクアットロであった。 そして夜…聖王教会の対策本部にはまだ灯りが灯っており、昼夜問わず議論が重ねていた。 その時である、議論を提示するモニターにノイズが走り映像が切り替わると、スカリエッティを映し出した。 この電波ジャックはミッドチルダ全土に及び、なのは達は待合室でその様子を観察していると 映像のスカリエッティは狂気に満ちた表情でゆっくり口を開き始める。 「ミッドチルダに住む諸君…久し振りだね、私を覚えているかい?」 …誰もが忘れる訳が無い、地上本部壊滅の一端を担い世界を破滅に導く存在を… そんなミッドチルダ全土の思いを後目にスカリエッティは話を続ける。 …いよいよ彼等は動き始める、今までの時間はミッドチルダを壊滅させる為の準備期間であったと。 「見たまえ!これが我々の戦力だ!!」 すると映像は引き絵に変わり、画面には夥しい数のガジェットと不死者が犇めいており、 ガジェットには新たな武装が追加され不死者も今までとは異なる凶悪さが垣間見てとれた。 スカリエッティ曰わくガジェット及び不死者はこれで全部なのではなく 至る場所に量産施設が存在し、其処から無数の軍勢として姿を現すと饒舌に語る。 「だが…コレだけではない、我々は遂にベルカの王を復活させたのだ!」 スカリエッティは両手を広げ宣言すると映像は王の間に切り替わり、 左右にはナンバーズ達が立ち並び、その列にギンガの姿も存在していた。 一方でギンガの姿を見かけたスバルとゲンヤは思わず目を見開き、 スバルに至っては両膝をつき、そのいたたまれない姿にティアナはそっと肩に手を置く。 しかしその光景を後目に映像は続き、奥の王の座が映し出されると其処には一人の女性が座っている。 その女性の年齢は17歳前後で服装は黒を基調としたバリアジャケットと騎士甲冑を合わせた造りの服に 髪をサイドポニーで纏め、その髪型は普段のなのはと酷似していた。 そして女性は目を開くと左右が紅玉と翡翠色をしたオッドアイで、その目を見たなのははヴィヴィオである事を確信した。 …いや確信せざるを終えなかった、あの瞳を見る前からそうではないかとなのはは感じており、 実際にそれが合っていた事に対し、流石のなのはも動揺を隠せずいると 映像のヴィヴィオが立ち上がり一つ間を置いて言葉を口にする。 「…私の名は聖王ヴィヴィオ、このゆりかごの主にしてベルカの王である」 ヴィヴィオの口から放たれるその言葉は威厳に満ちており、その佇まいは風格すら感じる。 そしてヴィヴィオは自分達の目的を話し始める。 「我々の目的はこのミッドチルダを土台に我々の世界…新たなベルカを創り出す事にある」 元々古代ベルカは此処ミッドチルダに侵略する為に来た、 故に本来の目的を知ったヴィヴィオはミッドチルダと言う“土台”の上にベルカを設立すると語る。 その言葉に苦虫を噛むような表情で映像を見るはやて。 「冗談やない!私等は肥やしやない!!」 はやては対策本部の机と強く叩き吐き捨てるように言葉を口にすると、それに呼応するように周りの人々が一斉に頷く。 一方で、はやては同じく演説を聞いていたカリムの顔を見る、するとはやての行動に気が付いたカリムははやての顔を見てにこやかに微笑む。 「安心してはやて、幾ら彼女が聖王だったとしても教会は協力を惜しみません」 …確かにかつてベルカはミッドチルダに侵攻した、しかし今は友好的な繋がりが出来ている、 それを捨ててまで聖王に…ましてやスカリエッティにつく事は有り得ないと断言するカリム。 しかしヴィヴィオの演説はまだ終わってはいなかった。 「この世界の住人に出来る事…それは速やかに死ぬ事、抵抗は無意味…死を受け入れなさい」 そうすれば苦しむ事なく生から脱却できると言葉にすると、 間髪入れずに老成の声が辺りに響き渡る。 「…いつからミッドチルダは貴様達のモノになったのだ?」 するとモニターが二分割され、其処にガノッサが映し出されるとクロノは歯噛みしながら睨み付ける。 ガノッサの周りにはエインフェリア達がずらりと並び立ち、ガノッサは杖で床をつつくと話し始める。 「ミッドチルダに住む諸君、いよいよ時は満ちた!貴様等が我々の礎となる為のな!!」 すると映像は海上を映し出し、ルーンを解除したヴァルハラがゆっくりと姿を現す、 …今までの潜伏は戦力を整える為のものであり、既にそれが揃った今だからこそ行動に移すと息巻いた様に語るガノッサ。 「見よ!これが我々の切り札である!!」 ガノッサは杖を高々に上げると映像が切り替わり、二つの月が映し出され、その間に何かが出現する。 其れは巨大な赤い水晶体のようなものに両端には竜の翼を象ったものがあり、 そして水晶体の中心からは管が何本の伸びており、ラッパのように先端が広がった砲口に繋がれていて、砲口には竜を象った飾りが付いていた。 人々がその存在に困惑する中で、クロノの端末に独自の諜報員からのデータが今し方送られてきており、 それに目を向けると驚愕し、思わず映像に目を向け声を荒らげた。 「奴らなんて物を!!!」 「さぁ終末を告げる笛の音よ!今こそ奏でてやろう!!」 ガノッサは高々と上げた杖を振り下ろしながら宣言するのであった。 …場所は変わり此処はミッドチルダ西部エルセア地方、人々はスカリエッティと三賢人の演説に聞き見入り 空は満天の星空で雲が一切無く星々が人々の頭上で力強く輝く頃、 一つの赤く輝く星の光が徐々に輝きを増し更に巨大化すらしていき、 それが映像に映し出されている攻撃であると気が付いた頃には辺り一帯を赤く染め上げ 攻撃が大地に突き刺さると一気に広がりを見せ、その光はエルセア地方全土を包み込み 赤い光が一筋の光となって消滅すると、エルセア地方は巨大なクレーターとなってミッドチルダの地図から消滅したであった… この一部始終はミッドチルダ全土に流れており映像には巨大な魔力砲を撃ち終えた砲口が映し出されている。 「これが我々の切り札、その名もドラゴンオーブである!!」 ドラゴンオーブ、二つの月の軌道上に設置された巨大魔導兵器で、 左右の二枚の翼で月の魔力を受け止め、中央の赤い水晶体によって増幅・圧縮、 そして砲口にて加速され撃ち放ちその威力は一目瞭然、常軌を逸していた。 そして今の今までその存在に気が付かなかったクロノは八つ当たりするように机に向かって拳を振り下ろす。 「情報が………遅すぎる!!!」 一方で現場や他の地域はアリの巣をつついたかのような大騒動に発展しており、 その情報は対策本部にまで伝わっており、ゲンヤの指揮の下、対応を取り始める中 映像には未だガノッサとヴィヴィオが相対するように映し出されていた。 「我々はこの力でミッドチルダを破壊し全ての憂いを晴らし神の道を行く!!」 「そうはさせない、この世界は我々の世界の礎として必要な物である、破壊などさせてたまるか!!」 互いは相対しながら睨み合い、宣戦布告すると両者の映像が消え、 その中でカリムは一人、予言の一文を思い返していた。 …神々と死せる王が相対する時、神々の黄昏を告げる笛が鳴り響く…と…… 前へ 目次へ 次へ
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愛有るが故に、時として非情にならなければならない。それが戦場なら尚更のこと。 それをいつまでも仲間だから、友達だから、と同情を引きずる戦士は居てはならない。 その戦士は必ず、一人のために大勢を犠牲にするからだ。そんなことはあってはならぬこと。 なのに、ここの戦士たちはそれを知らない。いや、知ろうとしない。まるで、高校の友達のように接している。 それがアイクにはにわかに信じ難かった。戦いを生業とする者が、いつまでもヘラヘラしていることに。 アイクの部隊は決してそんなことはなかった。 確かに、戦いが無い場ではこんな風に楽しく過ごしていたのだが、いざ戦いとなると、 お互いのことを決して心配しないようになる。自分の身は自分で守るしかないからだ。 そのことをこの模擬戦が終わったら伝えよう、そうアイクは思っていた。 せめてこのことだけは、と思っていたのだ。 しかし、模擬戦の後に伝えるのはもはや手遅れだと、アイクは感じることになる――――――――。 第7章「愛情と友情と」 「たぁぁぁっ!!!」 「でやぁぁぁ!!」 スターズの隊員となのはが空中で戦っている。今日の訓練のおさらいも兼ねているらしい。 ふと、セネリオは違和感を感じた。その正体は分からない。 ただ、何かが起こる――――――――――――そう感じた。 アイクはその違和感の正体に気付いているらしい。 「アイク、これは一体…?」 「セネリオ、ティアナをよく見てみろ。」 そういってティアナを顎でしゃくる。次いで、なのはをみる。 セネリオはまだその意味がわからないでいるようだった。 「一体どういうことですか?」 「……ティアナはこの模擬戦で一発もなのはの弾を相殺していない。」 セネリオとなのはの「撃った弾」を見る。 言われてみれば、確かにオレンジの弾はなのはの撃ったピンクの弾を狙わず、なのは自身を狙っている。 ふとその正面にスバルがやってきて、なのはを思いっきり殴りつけようとする。 (危ない!) 反射的に感じたアイクは体が少し前に出ていた。スバルを救おうとして、やめた。 今は彼女の訓練中だ。他人が余計な口をはさむのは許されないだろう。 無意識的に握ったラグネルを再び壁に立てかけ、フェイトやエリオ達と一緒に傍観をすることにした。 そんな行動をしている間に模擬戦は進んでいく。 ビルの屋上からティアナが砲撃を撃とうとする。砲撃は今の彼女には使えぬ代物だ。 皆が驚いている中、セネリオは危機感を感じる。 セネリオはなのはの葛藤を感じていた。 自分の思った通りに動いてくれないという苛立ちと、予想外の行動に出始める部下への焦りを。 このままでは危ない。セネリオが感じた刹那のことだった。 「一撃必殺!!」 クロスミラージュからオレンジの刀身がなのはを襲おうとする。 確かに、この高密度の魔力の刃を食らえばただでは済まないだろう。 だが、――――――――― 「………レイジングハート。モードリリース。」 杖の様なデバイスを引っ込める。 そして、スバルの拳とティアナの刃がなのはに当たった、様に見えた。 しかし、その拳も刃も、なのはに届くことはなかった。 なぜなら、 「…おかしいな。みんな…どうしちゃったのかな?」 なのははその両方を素手で受け止めていた。 アイクは戦慄する。食らえばひとたまりもないであろう攻撃を両方素手で食い止めたのだから。 さらに、なのはの醸し出す雰囲気も変わった。 それは殺気でもなく、怒りや憎しみでもなかった。純粋な悲しみ。今のなのはからはそれが感じられた。 「練習のときだけ言うこと聞く振りして本番でこんなむちゃするなんて…練習の意味…ないじゃない。」 拳を掴まれているスバルは恐怖を、デバイスを掴まれているティアナは驚きを感じた。 血を、流している…。 ティアナの心が罪悪感で満たされつつあった。 誰も傷つけたくないから、強くなりたい。そんな思いがあったから、彼女は今まで頑張っていたのだ。 だが、今は恩師を自分の手で傷つけている。その事実にティアナは大きく動揺し、涙をにじませる。 「私は!!誰ももう傷つけたくないから!!強くなりたいんです!!」 そう叫ぶティアナはどこか、己自身を断罪しているかのようだった。 まるで、罪人が神に許しを請うように。 「……少し、頭冷やそうか…。」 スバルにレストリクトロックをかけ、なのははティアナを狙う。 「ファントムブレイズ!!!!!!」 「クロスファイア…シュート。」 二つの魔力弾がぶつかり、相殺される。 ティアナは絶望したように立ち尽くすのに対し、なのはの攻撃はまだ終わっていなかった。 「よく見てなさい…」 スバルに言い放つ。 それは、仲間がやられる様を見ていろと言うのか。 それとも、彼女が罪人に正義の鉄槌を下す瞬間を見ていろというのか。 何にせよ、質問の時間は与えられなかった。 ドウッ!!! そして、二発目が放たれる。それは一直線にティアナへと向かって行き、そして―――――― 「くっ!!」 魔力弾が当たった時特有の轟音と爆発が起きる。 しかし、クロスファイアシュートを食らった時の声は明らかにティアナではなかった。 「…………」 アイクが無言でティアナの前にたたずむ。 その姿はまさに修羅だった。 「なぜ撃墜しようとした?」 「あなたには関係ないわ。どいて。」 冷たくなのはが言い放つ。並みの人間ならば、その一言だけで足が震えるに足るものだろう。 しかしアイクは歴戦の勇者。この程度ではびくともしない。 「…………」 しばし、無言の圧力が場を支配する。その間は永遠に匹敵するほど長く感じられるものだった。 そんな二人の醸し出す殺気と圧力にエリオときゃ路の二人は脅えきってフェイトにしがみついている。 「フェイトさん……」 キャロが不安げにフェイトに抱きつく。そんなキャロにフェイトは優しく言った。 「大丈夫。あの二人は私たちを悲しませるようなことは、絶対にしないから。」 そう言って二人の頭をなでる。だが、今の二人はまさに、一触即発だ。 きっかけがあれば、爆発する。 そんな様子だった。 「……裏切られるのが怖いか?」 静寂を破り、アイクがなのはに問いかける。 それは恨みや憎しみはおろか、悲しみさえも含まない感情のない声だった。 アイクは純粋にそれが聞きたかったのだ。 「…何が言いたいの?」 「お前は「今」が変わってしまうのが恐いのか、と聞いているんだ。」 その場にいる誰もが首をかしげる。 ただ一人、なのはだけはビクン、と肩を震わせ動揺を示していた。 「誰だって突然「今」が変わってしまうことには恐怖を抱く。 だから、部下にいつもと違うことをさせぬよう徹底させ、不変の日常を演じようとする…違うか?」 「あなたに何がわかるっていうの!?それがわかってるんだったら、どうして!!」 いつにもなく、なのはが大声を出す。相当動揺しているようだ。 そんな中、アイクはすっと目を閉じ、語り始めた。 「…俺がいた世界には、対をなす二人の女神がいた。 片方は絶対の秩序こそが争いを生まぬと信じ、世界中の人々を石に変え、世界に静寂と絶対の安定を作った。 もう片方は進化こそが人間の希望だと信じ、石にされなかった俺達とともに、その女神と戦う道を選んだ。 その後、その二人の女神は一つになり、「見守る。」という判断を下した。 …確かに、「今」が変わるのは怖い。だが、それが進化のためならば、俺たちは見守ってやるべきじゃないのか?」 アイクが懐かしく語りだす。 その様子は過去を懐かしく思うようであり、また、戦うことしかできなかった自分を悔やんでいるようにも見えた。 そんなアイクの言葉に耳を貸さず、なのははレイジングハートを起動させ、アイクに向けてアクセルシューターを放とうとする。 「だから何!?私のこと何も知らないくせに、そんなこと言わないでよ!!」 アクセルシューターが放たれた。 しかし、それはアイクに届くことはなかった。 ゴウッっ! 突然、アイクを覆うように竜巻が生まれ、アクセルシューターをすべて弾きだしてしまった。 「え……?」 スバルも、ティアナも、フェイトもエリオもキャロも、もちろんアイクも。 何が起きたのか、全く分からない様子であった。 竜巻が晴れ、辺りの景色が見やすくなる。よく見ると、アイクの前に小さな人影があった。 「…大丈夫ですか?アイク。」 そこにはセネリオがいた。しかし、様子がいつもと違う。 セネリオは怒っていたのだ。自分の最も信頼する人を傷つける人に対して。 そして、なにも語ろうとしない癖に、自分のことを理解してないくせに、という人に対して。 「なのはさん。あなたは何もわかっていない。では聞きますが、あなたはアイクの過去を知っていますか? アイクの背負っている物を知っていますか?僕のことを完全に理解しているというのですか? それが説明できない者に、そんなことを言う資格はありません。」 痛烈な言葉を浴びせるセネリオ。 だが、それはすべて的を射ており、反論の余地がない。 アイクは事実上、両親を目の前で殺されている。 しかも、母親を殺した人物は父親である。 そんな複雑な家庭を持ち、さらに傭兵団団長を務めているというのはあまり人には言えぬだろう。 セネリオもそこを察知して、あえて語らなかったのだろう。 その態度と言動にすっかり心を乱されたなのはは、 「今日の訓練はここまで」 と言い渡し、さっさと帰ってしまった。 時刻は9:30. ロングアーチの階段にティアナは座っていた。 (私…どうしたらいいんだろ…) ティアナは迷っていたのだ。 自分が変わっていってほしくないから、なのははティアナの変化を拒んだ。 しかし、アイクにはその変化を受け入れてくれた。 どちらかといえば、アイクに受け入れてもらえてうれしかった、と感じてしまう自分がいる。 それはいいことなのか、それともいけないことなのか。 そう考えていると、背後から声がした。 「ティアナ…」 不意にティアナは名前を呼ばれ、反応する。 そこに立っていたのはアイクだった。 「俺は何があろうと、お前を信じる。だから、変化を恐れるな。 何かを得るには、何かを捨てなければならない。今の自分を捨て、新たな事に挑戦しなければならない。 強くなりたければな…。だから、頑張れ。」 アイクも階段に座り、そう言ってくれた。 ティアナはアイクが心配してくれているのがうれしかった。それだけで自分は強くなれる気がする、そう思えるようになっていた。 「はい!…ありがとうございます。」 ティアナは戦士として、一人の女性としてアイクに例を告げた。 そして、気になっていたことを聞いてみた。 「アイクさん、セネリオさんはああ言ってましたけど、…過去に何があったんですか?」 決して安易に尋ねてはいけないであろう質問をするティアナ。 その質問にアイクはどこか複雑な豊穣を浮かべて話した。 「俺は………………」 「すみません…こんなこと聞いて。」 つらい過去を思い出させてしまったという自責の念に駆られるティアナ。 だが、アイクはそんなことはこれっぽっちも気にしていなかった。 「いや、俺の過去は俺のものだからな。俺が背負って生きていかなきゃならない。 だったら、拒絶するより受け入れるほうがいい。それを全部ひっくるめて、俺なんだからな。」 ティアナはしばらく絶句した。 なんて、強い人だろう…。 率直にそう感じた。 ここまでつらい過去を背負って尚、一人で生きようとする意志を持てる人間はそういないだろう。 百歩譲っていたとしても、その目標を達成するのは不可能に近いだろう。 「さて、俺はこれから寝るが、大丈夫か?」 「はい!ありがとうございました!」 いい笑顔で返事をするティアナ。 アイクはそれで少しは安心した。 「じゃあ、お休み。」 そう告げて、アイクは寝室へと戻って行った。 「ぐっ………」 ティアナと別れ、寝室に戻ってきたアイクは突然膝をついた。 理由は、全身を駆け巡る体の痛みだった。 「これが、加護の反発…。」 アイクが受けた痛みの正体は、体の中にあるアスタルテの加護t、ラグネルのユンヌの加護の反発。 お互いがお互いを倒すために作られた加護。 とはいえ、ラグネルを握っただけでこの痛み。 「これで戦ったら、どれほどの痛みが…が…」 さすがに、訓練などで体力を消耗していたからか、痛みで意識が混濁し、アイクはそのまま眠りに落ちてしまった。 to be continued..... 前へ トップへ 次へ
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「よし! それじゃあ行くぞ! それぇ!」 オメガマンはデバイスから魔砲を発射した。それによってレオパルドンの発射した 地獄の砲弾を撃ち落とし、地獄の砲弾は空中で爆発した。 「よし今だマンモスマン! 行けぇ!」 「おう!」 マンモスマンは再度突撃を開始した。オメガマンの援護によって地獄の砲弾が次々 撃ち落されて行き、テロリスト側も焦ったが、マンモスマンの行く手を 多数の魔動兵器達が妨害した。 「邪魔をするな! パオォォォォン!! ビッグタスクゥゥ!!」 マンモスマンの特長と言える二本の巨大な牙、ビッグタスクが猛威を振るった。 分厚い金属の装甲で守られた魔動兵器達が次々貫かれ、砕かれていく。 と、今度はデバイスを持ったテロリスト達が魔砲を撃ちながら突撃を仕掛けて来た。 「うおおおお!! あのマンモスの毛皮を被った大男をなんとかしろぉぉ!!」 「人間ごときがやるかぁ!?」 マンモスマンは真正面から弾き飛ばしてやろうとした…が、それより先にフェイトが 急接近し、バルディッシュでテロリスト達をまとめて斬り裂いていた。 「今のウチのあの大砲男を!」 「邪魔しやがって…だがありがとよ!」 ついにマンモスマンはレオパルドンへ接近した。この近距離では地獄の砲弾も上手く使えない。 とすればもはやレオパルドンと言えども超人の本分たる格闘戦に移る他は無かった。 「レオパルドン行きます!! グオゴゴゴ!!」 「ノーズフェンシング!!」 「ギャー!!」 結局レオパルドンはマンモスマンの鼻を槍状に変化させた技、ノーズフェンシングで 胸を刺されて死亡と言うキン肉星王位争奪戦の時と同じ結果に終わってしまった。 「あああ!! レオパルドン先生がやられたー!!」 「なんてこった!!」 レオパルドンの敗北はテロリスト側の士気を下げさせる事に繋がった。 しかし…逆にヤケクソになる奴も多かった。 「畜生! こうなったら総力戦だ! なんとしても管理局を制圧してロストロギアを奪え!」 「オオー!!」 なんと残存するテロリストや彼等の使用する魔動兵器が一斉に突撃を開始したでは無いか。 あまりの数にもはや大津波にもなるようなそれが一斉に殺到していた。 「ゲェェェェ!! 何て数だ! ありゃもうテロリストどころか立派な軍隊だ!」 「で、お前等の所の残存戦力はどの程度あるんだ!?」 「あの…絶望せずに聞いて…。」 「多分…私達5人だけかと…。」 「ゲェェェェ!! あまりにも劣勢すぎるぅぅぅ!!」 残念ながらこれはマジだった。レオパルドンの地獄の砲弾攻撃が痛かったのか、 管理局側の戦力はなのはとフェイトとクロノの三人を除いて壊滅。 現になのは達がいる場所にも名の無い局員達の死体が転がっているのである。 「まったく…これだから人間の戦争は困る。」 「超人の場合、少数の代表者同士の対決で決着を付けるからな。」 しかし、そうは言ってもやはりこの余りにも劣勢すぎる状況は何とかしなければ ならなかった。でなければまたマンモスマンとオメガマンは超人墓場に逆戻りしてしまう。 「こうなったらやるしかないか! 考えても見ろ! キン肉マン達は 俺達の10分の1以下の超人強度しか無いのでありながら俺達に勝ったんだぞ。 なら俺達だってあの程度の大軍に勝てなくてどうする!!」 「よっしゃ! んじゃあやってやるか!! 自分の数十倍の超人強度の 敵に挑むのに比べればあんな数…。」 マンモスマンとオメガマンはそう自分自身に言い聞かせ、不退転の決意で 徹底抗戦の構えを取っていた。しかし…それはなのはとフェイトとクロノも同様だった。 「貴方達二人には失礼だけど…無関係者ばかりに良い格好はさせないよ。」 「この戦い…私達だけで何とかしてみせる…。」 「よし行くぞ!」 とにかくこの戦い…必ず勝利する。 まったく生まれも育ちも境遇も違う五人がこの一つの目的の為に心を一つにした。 そして正面から突撃してくるテロリストへ迎え撃ったのである。 「うおおおおおおおおおおおお!!」 最後の戦いが始まった。 「エクセリオンバスター横薙ぎ放射!!」 なのはのエクセリオンバスターの横薙ぎ放射でテロリストをまとめて吹き飛ばしていく。 「バルディッシュザンバー!!」 フェイトがザンバーフォームのバルディッシュでテロリストを次々斬り伏せて行く。 「アイスロックジャイロォォォ!!」 マンモスマンがキン肉星王位争奪戦の決勝戦でロビンマスクに対し行った技。 敵を超高速で投げて掴み捻りまた投げるを繰り返す事によって投げる対象の空気が冷やされ、 その対象が凍り付くと言うゆで理論によって出来た氷の塊を超高速でテロリストへぶつけるのである。 「いでよ亡霊超人達!!」 オメガマンが過去にハントし、自身に取り込んだ亡霊超人達の頭部がオメガマンの身体から出現し、 それが次々にテロリスト達を噛み殺して行った。 あとクロノに関しては…筆者のクロノに対する知識不足のせいで割愛させていただく。 「おいちょっと待てよ!!」 でもそれなりにクロノも次々テロリストを倒してるのであしからず。 「エクセリオンバスターフォースバースト!!」 「ジェットザンバー!!」 「ゴーストキャンバス!!」 「オメガカタストロフドロップ!!」 一名中略 「中略すんな!!」 まあそれはともかく…なのは、フェイト、マンモスマン、オメガマン、その他一名の 計5人は力と技と知性の限りを尽くしてテロリスト達を倒して倒して…倒しまくった。 それからしばらくして、やっと他の部署からの応援が到着していたのだが… 既にそこには彼方此方に倒れている恐ろしい数のテロリスト達の上でグッタリしてる 四人とその他一名の姿があった。 「遅いよ応援…。もうみんな倒しちゃった。」 辛くも勝利したとは言え、テロリストの手によって手痛い打撃を受けた管理局は 部隊の再編などが必要だった。そして他からの応援が慌しく事後処理に駆け回っていたが、 今回のテロリスト討伐で活躍した功績でマンモスマンとオメガマンは釈放された上に 金一封まで貰っていた。 「ちょっと管理局の再編に時間が掛かりそうだし…せめて再編が完了するまでの間だけでも 君達もここで働いてみないか? 君達なら魔法が使えなくとも十分通用すると思う。」 「いや、すまんが止めとく。俺達は正義超人の連中と違ってそういうのガラじゃないんだ。」 「すまんな。」 「そうか…。無理を言って済まなかったな。」 …と、クロノも二人をスカウトしようとしていたが、丁重に断られてしまった。 管理局から離れたマンモスマンとオメガマンだったが、二人は元の世界に戻らなかった。 それは何故かと言うと… 「次元世界ね~。俺達の宇宙以外にも色々あるんだな~。」 「元の宇宙に帰るのも良いが…このまま色んな次元を渡り歩くって手もあるな。」 「よっしゃ! なら俺は各次元各地の賞金格闘トーナメント巡りでもしてみるか。」 「俺も宇宙ハンターは廃業して、代わりに時空ハンターを始めよう。そしてありとあらゆる 次元、時空の賞金首をハントするのだ。」 こうして…二人は遠い遠い次元へ旅立った。 キン肉マンⅡ世で二人の事が言及されていないのは…これが理由なのかも…しれない。 おわり 前へ 目次へ
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「今回までのあらすじを俺が説明してやるぜ!」 言いながら画面(?)に接近する良太郎。 またしても何かに取り付かれているらしく、髪の毛は逆立ち、赤い瞳をしている。 「うわぁ、何やコレ……えらい唐突な始め方やなぁ……」 「うるせぇ!え~と何だ……まずアレだ、天道総司とか言う奴!」 良太郎は突っ込むはやてを無視し、そのまま話を続けてゆく。 「ハイパークロックアップ!」 『Hyper Clock Up(ハイパークロックアップ)!!』 ハイパーカブトの全身のカブテクターが展開、背中から光の翼が飛び出す。 次の瞬間、カブトを緑の光が包み、そのままその時空から姿を消した……。 「で、カブトは私達の目の前で堂々と時間を巻き戻した訳だね」 今度はフェイトが喋り出す。 「うん……その後の私達の説得も通じず、ついに管理局の『カブト捕獲命令』が発令されちゃう訳で……」 フェイトに続いて、なのはが口を開く。 「さらに私達の仲間がライダーとして選ばれて……」 「変身!」 クロノは大きな声でザビーゼクターを装着。 クロノの体が銀と黄色のアーマーに包まれてゆく。 クロノが変身したライダーの名は『仮面ライダーザビー』だ。 「そうそう、お兄ちゃんがザビーになっちゃったんだよね……」 フェイトが兄を心配するような表情で喋り出す。 「でも、私達の前に現れたライダーはそれだけとちゃう」 「うん……天道さんだけじゃなく、もう一つ解決しなきゃならない問題……」 「デルタギアだね。」 三人はテーブルを囲むような形で向き合う。 「ちょっとオマエ倒すけどいい?」 ステップを踏みながらセンチピードオルフェノクを指差すデルタ。 このデルタに変身しているのは良太郎のはずなのだが…… 「シャッ!」 センチピードオルフェノクが繰り出すしつこいまでのムチ攻撃を、デルタは全てダンスのステップで回避。 「ばぁん!ばぁん!」 今度はデルタの反撃だ。 取りあえず撃てばいいと思っているのか、とにかく出鱈目にデルタムーバーを連射する。 それにより公園の建造物はみるみるうちに破壊されてゆく…… 「おいおい何だよこの戦い方は……目茶苦茶じゃねぇか」 両手を上げて、さも呆れたような口調で言う良太郎に、その場の空気は固まり…… 「「「キミがやったんだよ!!」」」 なのは・フェイト・はやては口を揃えて言った。 「だーから、俺じゃねぇっつってんだろ!!」 「じゃあ誰やねん?この期に及んで言い逃れとは……見苦しいなぁ」 「私の目の前で変身したじゃない?」 「映像にも残ってるんだから、正直に言った方がいいよ?」 三人は良太郎に詰め寄る。 「(くっ……コイツら、ガキの癖に……!)」 三人の、まるで犯罪者に対する警察官のような態度に、良太郎も勢いを失うのであった……。 「で、デルタギアの少年はどうなったの?」 「はぁ……それが、学校での戦闘は認めてるんですが、その前の……公園での戦闘は認めようとしないんですよね……」 リンディに質問されたエイミィが良太郎の言い分を説明する。 良太郎は「確かに学校で戦ったのは俺だが、その前のは知らねぇ!」と容疑を否認しているらしい。 「しかも弱々しい性格かと思ったら、いきなり凶暴な性格に変わったり、いきなり髪の毛の色が変わったり……」 「髪の毛の色……?」 「はい……もう、あの手のキャラは今までに無いパターンなんで、お手上げですよ……」 「……悪いけど、しばらくそのまま尋問を続けて貰えるかしら?」 一部始終の報告を終えたエイミィは、疲れたような表情で「わかりました」と返事を返した。 ACT.13「激突!なのはvsハイパーカブト!!」 数日後、海鳴市。 「あ、ちょっと待って下さい海堂さん!」 「だーもうっ……ちゅうかお前さっきから俺様に引っ付きすぎだっつーの!」 海堂と呼ばれた青年が、しつこく付き纏う少女に言う。 この青年の名は『海堂直也』という。 どうやら海堂の歩く速度が速いために、普通に歩いていては段々と離れてしまうようだ。 「ま、俺様があまりにもカッコ良すぎるから?お前が付き纏いたくなるのもわかるけどよ」 「はい!海堂さん今日もすっごくカッコいいですよ!」 ふふんと笑う海堂に引っ付く少女。 そこに一緒に歩いていたもう一人の青年が割り込む。 「いつも思うんだけど長田さん、海堂のこと褒めすぎだって」 「え……だって……」 長田と呼ばれた少女は少し困ったような顔をする。 少女-結花-は海堂に気があるらしく、いつも海堂をベタ褒めしているのだ。 「海堂、あんまり褒めたらまた調子に乗るからね」 「ちょちょちょ、ちょ~っと待て木場ぁ!」 すると、海堂が妙に頭を揺らしながら青年-木場-を睨む。 彼の名前は『木場勇治』。 色々あって今は海堂、結花と三人で生活しているのだ。 「俺様がいつ調子に乗ったってんだよぉ!」 「いつも乗ってるじゃないか」 いいながら少し笑う木場。この三人はそれなりに仲がいいらしい。 「木場勇治……か。」 一方、涼はバイクに乗りながら冴子から渡された写真に写った男-木場勇治-を思い出していた。 借りた借りは返す。 その為に「木場勇治を倒す」という依頼を受けはしたが、それは本当に正しいことなのか…… そんなことを考えながら、赤信号にバイクを止めた涼の目に入ったのは、とある小学校だった。 「ここはアリサの学校……か」 涼はぽつりと呟くき、またすぐに走り出した。 「橘……どうやらザビーブレスの奪還に失敗した様だな?」 「邪魔が入っただけだ。次はこうは行かない」 ZECT本部、その薄暗い一室で橘は三島に前回の報告をする。 「それより、俺に会いたい人というのは?」 本来なら電話だけでいいのだが、今回はZECT側も橘に用があるらしく、わざわざ本部まで赴いていた。 「エリアZの研究所から出向してきた人物だ。」 橘の質問に三島はさらっと答える。 「エリアZとは……?」 「今のお前が知る必要は無い」 橘はさらに詳しく質問しようとするが、三島に遮られ少し顔をしかめる。 そうこうしていると、薄暗い部屋の扉が開き、少し廊下の光が差し込んできた事に気付く。 そこから入ってきたのは、黒いコートに黒いサングラスをかけた、いかにも怪しげな男だ。 「アンタは?」 「……俺の名は伊坂。お前が橘だな?」 「ああ……」 伊坂と名乗った男はそのまま三島の横に並ぶ。 橘は「なんでコイツらはこんな薄暗い部屋でまでサングラスをかけているんだ」という疑問を浮かべるが、口には出さなかった。 「橘……お前にはもう一つやってもらう事がある。」 「……?」 「まぁお前にとってはこっちが本職だろうがな」 フッと笑いながら三島に合図を送る伊坂。 すると三島は前回と同じようにパソコンを操作し…… 「貴様にはカテゴリーAを封印してもらう」 「カテゴリーA……」 橘も三島の言葉を復唱する。 それはBOARDにいた頃、自分が封印しようとしていたアンデッド。 53体のアンデッドはトランプの元になったと言われている。 カテゴリーA(エース)とはトランプで言う所のエースにあたる4体のアンデッドの事だ。 「お前にはなんとしてもスパイダーアンデッドを封印してもらう」 「言われなくても、アンデッドならば封印するつもりだ」 橘は伊坂に返事を返しながら、パソコンに写ったプライムベスタへと視線を写す。 それはオレンジの背景に、緑の蜘蛛が描かれた、クラブスートのエースカード。 この時は誰も、このカードの背景の色など気にも留めなかっただろう……。 橘はカテゴリーAの封印という追加指令を受けた後、すぐにその部屋を後にした。 カテゴリーAの封印任務においては伊坂の指示に従わねばならないらしい。 橘はしばらく歩いた所で、何かの気配に気付く。 誰かに見られているような……そんな気配だ。 「……誰かいるのか?」 橘は周囲を見渡すが、自分の近くには誰もいない。ただガラスの光が反射しているだけだ。 だが、そこで橘はガラスに写る何かに気付いた。 それは明らかに不自然……というより、有り得ない者だった。 そこにいないはずの物体。それがガラスには写り込んでいるのだから。 『橘朔也……』 「……神崎……!」 ガラスに写っているのは、ベージュ色のコートを着た一人の男だった。 橘はその男を『神崎』と読んでいるが…… 『新たなライダーシステム……か』 「……お前、何を言ってるんだ!?だいたい、何でそんな場所に……!」 こちら側にはいないのに鏡の中にはいる。こんな光景、見た事が無い。 いや……見た事は無いが、一つだけ心当たりはあった。 「まさか……ミラーワールドか!」 『……カテゴリーAを封印しろ。今はそれだけでいい……』 しかし神崎は橘の質問に答えるつもりは無いらしい。 驚いている橘を尻目に、神崎は表情を全く変えずにそう告げた。 「神崎……おい、神崎!!」 そして次の瞬間には神崎はその姿を消しており、橘のガラスを叩く音だけがこの空間に響くのだった……。 数分後、再び海鳴市。 木場達三人はのんびりと雑談しながら歩いていた。 この時まではいつも通りの平和な昼下がりだったのだが…… 「お前が木場勇治か……?」 自宅へと帰る為に道を歩いていると、待ち伏せしていた男に話し掛けられる。 「そうだけど……キミは?」 木場は不審に思いながらも聞き返す。 この男こそ木場を倒す為に差し向けられた刺客-涼-である。 「アンタに怨みは無いが……」 うわぁあああーーーーーーッッ!!! 「「……!?」」 涼が「倒させてもらう」と続けようとした時、どこかから誰かの悲鳴が聞こえてきたのだ。 とにかく話は後だ。 「ちょ、おい木場!?」 「木場さん!?」 次の瞬間、木場と涼の二人は海堂達を置き去りにし、声の方向へと走り出していた。 「アイツは……!?」 木場と涼の目の前にいるのは、黄土色の体をした蟹のような化け物。 化け物-ボルキャンサー-は今にもそこにいる男性を襲おうとしている。 「……変身!!」 涼は両手をクロスさせ、ボルキャンサーに向かって走りだした。 それと同時に涼の後ろから何かが走ってくる。 その何かは涼の体と重なり、涼の体はギルスとなる。 「わあぁあおッ!!」 ギルスはボルキャンサーを全力で殴りつける。 「キミは……」 その光景を見た木場は驚いた表情をするが、すぐに我を取り戻し襲われていた男性に近寄る。 「はやく、逃げて下さい……!」 木場に急かされた男性は震えた足でなんとか立ち上がり、そのまま走って逃げ出した。 それを見届けた木場は立ち上がり、ボルキャンサーを睨み付ける。 やがて木場の顔に、馬の顔ような何かの影が浮かび上がる。 次の瞬間、木場はその姿をホースオルフェノクへと変え、魔剣を携えてボルキャンサーへと走りだしていた。 「はぁッ!!」 ホースオルフェノクはボルキャンサーへと魔剣を振り下ろす。 「お前、木場勇治か!?」 「そういうキミは何者なんだ!」 ギルスはボルキャンサーを殴りつけ、ホースオルフェノクは魔剣を振るうことで攻撃を続ける。 二人がかりで攻撃されているボルキャンサーも腕の巨大なハサミで上手く防御しているが、明らかに劣勢だ。 「……ッ!!」 ボルキャンサーは低い唸り声を発しながらハサミをギルスに突き立てるが、それも両腕から生えたギルスクロウに阻まれる。 「フンッ!」 その隙にホースオルフェノクはボルキャンサーへと魔剣を振り下ろす。 ホースオルフェノクの攻撃を受けたボルキャンサーの体から火花が散り、少し後ずさる。 「ウゥ…………」 ボルキャンサーは二人から少し距離を取り…… 「「あ……待て!」」 なんと、そのまま二人とは逆方向に逃走を図ったのだ。 「逃がすかぁ……!」 ホースオルフェノクの影に写った木場はそう言い、次の瞬間にはケンタウロスの様な姿-疾走態-へと変化していた。 ホースオルフェノクはそのまま馬のように前脚を振り上げ、魔剣を構える。 そして目の前のガラスに向かって疾走するボルキャンサーに突進し…… 「はぁーーーッ!!」 ボルキャンサーに向かって魔剣を突き立てた。 パリィィィンッ!! 「な……!」 しかしホースオルフェノクが攻撃したのはただのガラスだった。 「鏡の中に入った……?」 魔剣がボルキャンサーに届く事は無く、ギリギリで鏡の中に逃げ込まれてしまったのだ。 やがて木場と涼は人間体へと戻り、その場でしばらく睨み合う……。 一方、聖祥大附属小学校。 「さて……各自調査の結果を報告して貰おうか」 腕を組んだ天道が蓮華と加賀美に告げる。 ちなみにここに剣がいないのは、この潜入捜査のメンバーとして剣を編成した天道自身も、 まぁ剣が対した情報を仕入れていることは無いだろうと勝手に予測したからだ。 「まず消えた合唱部なんですが、どうやら学校に行ったまま帰って来てないらしいんです」 「……何だと?」 「親族の方が言うには、7年前に学校へ行って、そのまま行方不明になったそうです」 「ほぅ……失踪した、という事か……」 天道は腕を組んだまま、何かを考えるように俯き、数秒後加賀美に向き直る。 「加賀美……お前はどうだ?」 「あぁ……どうやらこの学校にはちょっと前まで『恥さらし部』とまで言われた野球部があったらしいんだ」 自分に振られた加賀美はすぐに説明を始める。 ちなみに手に持っているノートには赤字でマル秘マークが書かれている。 「……ほぅ。その恥さらし部とやらが今回の事件にどう関わってると言うんだ?」 「それが、つい最近の話なんだけど、いきなり強くなったらしくて……」 「強くなった……?」 「あぁ、それもいきなりプロ顔負けの実力だ。おかしいと思わないか……?」 「なるほどな……確かにそれは不自然な話だな。」 さらに考え込む天道に、加賀美は「だろ?」というような表情で頷く。 消えた合唱部と、突然強くなった野球部……それから鍵を握っていると思われる『呪いの鏡』。 パズルのピースの様に段々と情報が集まってきたが、謎を解くにはまだ足りない。 ワームが絡んでいるのはまず間違いないのだろうが…… 「……だいたいわかった。樹花のキャンプ合宿までもうあまり日が無い。 それまでになんとしてもこの事件は解決する」 樹花の楽しみにしているキャンプまで残すところ一週間程だ。 樹花にとって初めてのキャンプを成功させるために、なんとしてもこの事件の真相を暴かねばならない。 そこで、加賀美は一つの疑問を抱く。 「天道お前……まさかキャンプの為だけにこんな潜入捜査をしてたって言うのか!?」 「その通りだ。大切な妹の初めてのキャンプ……それをワームごときに邪魔されてたまるか」 その言葉を聞いた加賀美は小さなため息をついた。 まぁ妹のためにここまでできるのも、天道のいい所の一つなのだが。 加賀美はそんな天道に、ある意味で安心したという。 「あ……そういえば!」 「何だ、まだ何かあるのか?」 加賀美が突然、何かを思い出したようにポムッと手を叩いたのだ。 「この学校にずっと前から広まってる噂なんだけど、たまに生徒が消える事があるらしいんだ!」 「……合唱部とは違うのか?」 「それが噂はその前から広まってるんだよ。 まぁ時期的にワームが関わってるとは考え憎いし、子供の噂らしい話なんだけどな」 ワームがシブヤ隕石に乗ってやってきたのは7年前と言われている。 つまりそれ以前の噂はワームとは無関係と考えるべきか。 「この学校では昔から、生徒が鏡の中に消えるって噂があったみたいなんだ」 「また加賀美ですか」 「だから鏡だ!俺じゃない!!」 蓮華に冷たい目で見られた鏡……もとい加賀美は二度目のネタに激しくツッコむ。 「鏡だろうが加賀美だろうがどうでもいい……それより、鏡の中に消えるとはどういう事だ?」 「いや、どうでもよくは無いけど……まぁいいか。 鏡の中に化け物がいて、そいつが鏡の世界に人間を引きずり込んで喰ってるって噂だ」 今回も天道の目付きにツッコむ気力を失った加賀美は、鏡の化け物についての説明をする。 「ほぅ……都市伝説に有りがちなパターンだな」 「もしかしたら、その噂が今の呪いの鏡の噂に繋がるのかもしれませんね」 天道、蓮華も各々の見解を述べる。 「鏡の世界……か。」 天道は近くの焼きそばパンを置いているテーブルに乗った小さな鏡に写った自分の顔を見つめるのだった……。 数時間後、海鳴市のとある体育館。 ここでは近所の高校のバスケットチームが練習を行っていた。 試合に備えて練習しているらしく、それなりにハイレベルなプレイだ。 だが突然その体育館の照明が消え…… 「何だ?」 「誰だよ電気消したの?」 真っ暗で何も見えなくなった体育館で慌てて周囲を見渡す一同。 すると体育館の扉が「ガシャン!」と大きな音をたてて開く。 それにより外から眩しい光が差し込み、一同は目を細める。 入口に立っているのはヘッドホンから大音量のラップ音を漏らしている男だ。 次の瞬間、男-澤田-はポケットから一つの折り紙を取り出し、マッチで燃やす。 それを床に落とすと同時に澤田は顔を上げ、練習に励む少年達へと歩き出した。 「「うわぁーーーー!!」」 変化した澤田の姿を見た少年達は、入口は一つしかないにも関わらず、揃って体育館の奥へと逃げていく。 といっても入口に澤田が立っている為に、この体育館から出る事はできないが…… 体育館の入口では燃やされた折り紙が少しずつその形を灰へと変えてゆくのだった……。 「天道総司……」 夜道を歩いていた天道は、誰かに呼び止められその足を止める。 「なんだ……またお前か」 そこにいるのは間宮麗奈。 天道にとっては倒すべきワームの幹部だ。 「今日こそ死んで貰うぞ、天道総司……いや、カブト……。」 「ほぅ……調度良かった。貴様には聞きたい事があったからな。」 麗奈の後ろから無数のサリスが現れ、天道へとその爪を振り下ろす。 だが天道はその爪を回避し、サリス数匹を生身のまま攻撃する。 生身のままのパンチやキックもそれなりに効いているらしく、天道の戦闘力の高さが伺える。 やがて天道は右手にカブトゼクターを掴み、ワームの攻撃を回避するために地面を一回転。 そのまま起き上がり様にゼクターをベルトに装填した。 「変身……!」 『Change Beetle(チェンジビートル)!!』 同時にカブトのマスクドアーマーが弾け飛び、周囲のワームにダメージを与える。 最近では変身後すぐにライダーフォームになるため、マスクドフォームの描写が無い事も少なく無い。 カブトはすぐに麗奈を取り巻くサリスを一掃し、そのまま麗奈へとクナイガンを振り下ろす。 「ネイティブとかいうワームについて、教えて貰うぞ」 「ほぅ……?」 麗奈……いや、ウカワームは腕の大きなハサミでクナイガンを受け止める。 麗奈が変化したウカワームはシオマネキという蟹に似た能力を使う。 元が同じ蟹だけに防御の仕方はボルキャンサーもウカワームも似通っている。 「それは貴様らZECTが1番知っているんじゃないのか?」 「何……?」 クナイガンを弾き返すウカワーム。 「それは一体どういうことだ……!?」 「……知らないなら知る必要も無い。」 ウカワームの振り下ろすハサミ攻撃を受けた天道は、「クッ!」と漏らしながらのけ反る。 「いいだろう。貴様には、もう一つ聞く事がある!」 もちろんその程度の攻撃で終わる天道では無い。すぐに反撃を開始する。 「ひよりはどこへ消えた!?ひよりをしつこく付け狙っていた貴様なら、何か知っていてもおかしくは無い!」 「そんなこと、私の知った事では無い……!」 ウカワームのハサミとカブトのクナイガンがぶつかり合い、二人は少し距離をとって睨み合う。 「だが……一つだけ教えてやろう……」 「何だと……?」 腕のハサミをカブトへと向けるウカワーム。 「貴様の妹は、ハイパーゼクターの暴走に巻き込まれた……」 「ハイパーゼクターの暴走……!?」 ハイパーゼクターは未来の世界から時空を越えてやってきた、超化学によって生み出された代物だ。 それ故に不明瞭な部分も多く、過去にも何度が暴走したことがあった。 「そうだ……貴様の妹は暴走したハイパーゼクターに巻き込まれ、そのまま時空の彼方へと消え去った……」 「時空の彼方……だと……!?」 「フ……今の貴様にはどうしようもない場所だ」 つまりひよりはこの世界には既にいないということになる。 予想外の真実に驚いたカブトは、そのままその場に立ち尽くす。 ウカワームはそんなカブトを見て、「ざまあみろ」とでも言わんばかりに笑っている。 そんなウカワームの背後から、さらに十匹程のサリスが現れ。 その内、3匹のサリスはカブトを倒そうと群がるが…… 「はぁッ!!」 すぐにクナイガンで切り裂かれ、爆発。 「(そうだ……あんなワームの戯れ事を信じてどうする……!)」 カブトはすぐに我を取り戻し、今まで通りにワームを倒すことに専念することに…… 「行くぞ……!」 カブトは言いながら目の前のサリス集団に挑もうとするが…… ゴオオオオオオオオオオオッッ!!! カブトの目の前を桜色の閃光が走り、残りのサリスを全て飲み込む。 「……高町か。」 こんな攻撃を使う知り合いは一人しかいない。 カブトはすぐに攻撃が飛んできた方向を見る。 「にゃはは……今回は私達だけみたいだね……」 『Yes,Master』 ウカワームとカブトから少し離れた場所で苦笑いするなのは。 なのははいつも通りワームの気配を察知し、このフィールドへ現れ、ディバインバスターでサリスを一掃した。 だが他の管理局メンバーはまだ誰一人到着していないらしく、相手もウカワームとカブトのみだ。 つまり、今はなのは・ウカ・カブトの三人だけという事になる。 「管理局の魔導師か……。」 ウカワームもカブトと同じようになのはを見る。 「(聞けばカブトと管理局は敵対しているとか……)」 ウカワームの人間体である麗奈はニヤリと不敵な笑みを浮かべる。 わざわざワームである自分が手を出さなくても人間同士で勝手に潰し合ってくれる…… 「人間とは、本当に愚かな生物だな……?」 ウカワームは「フフ」と笑いながらそう言い、クロックアップでその姿を消した。 「「待て(待って)……!!」」 カブトとなのはもそれを追うためにクロックアップしようとするが、それを邪魔するかのように6匹程のサリスが現れる。 たかがサリスごとき、一瞬で蹴散らされるだろうが、ウカワームが逃げる為には十分だ。 カブトはクナイガンをアックスモードに変型させ、サリス全員に重い一撃を加える。 「相変わらず、強いね……」 『そうですね』 一撃で全てのサリスを粉砕したカブトの強さに感嘆の声をあげるなのは。 気付けばここにいるのはなのはとカブトの二人だけとなっていた。 二人はしばし睨み合い…… 「天道さん……やっぱり貴方は、管理局に投降するつもりは…」 「無い。何度も言わせるな」 カブトの言葉に落ち着いた表情で俯くなのは。 天道が「例え相手が管理局でも戦う」と宣言した時から、なのはは天道と戦う決意を決めていた。 だが、それでも「もしかしたら……」と思い投降を持ち掛けたのだ。 「……なら、私なりのやり方で……今日こそ決着を付けさせて貰います!」 そう言い、冷静な表情のままカブトを見据えるなのは。 相手の目を見ればわかる。どうやら高町は本気で戦う決意を決めたらしい。 それに気付いた天道に、もはや戦いを避けて逃げるという選択肢は無くなっていた。 「……どうしてもやるというのなら、俺はお前を倒す……!」 言うが早いかカブトの目の前が緑に光り輝き、そこからハイパーゼクターが現れる。 「ハイパーキャストオフ……!」 『Hyper Cast off(ハイパーキャストオフ)!!』 カブトはつかみ取ったハイパーゼクターをベルトのハードポイントに装着。 それと同時にカブトの全身の装甲が大型化、腕や足といった随所にカブテクターが装着される。 「ハイパーフォーム……!?」 いきなりのハイパーフォーム化に少しだけ驚くなのは。 だがこちらが全力全開で戦うのだから、相手も本気になるのは当然のことだとすぐに納得する。 「行くよ、レイジングハート!」 なのははアクセルフィンで一気にハイパーカブトに接近。 「……!?」 「レイジングハート!」 『Short Buster』 そのまま後ろに回り込み、威力とチャージタイムを抑えたディバインバスター……ショートバスターを撃ち込む。 「ク……!」 ハイパーカブトはなんとかガードの姿勢でそれを受け止める。 「次!アクセルシューター!」 『Axel Shooter』 さらになのはは誘導弾を同時に11発発射。 それらはハイパーカブトの周囲を飛び回る。 だがハイパーカブトも防戦一方では無い。 誘導弾の内3つがハイパーカブトに向かって加速するが、ハイパーカブトはそれを回避。 「……どこを狙っている?」 「まだまだ……!」 回避された誘導弾がUターンし再びハイパーカブトに襲い掛かるが、次の瞬間にはその3発は撃墜されていた。 「あれは……!」 「パーフェクトゼクター……。」 空から高速で飛来した大剣-パーフェクトゼクター-は、誘導弾3発を道連れに地面に突き刺さっている。 「この程度の攻撃で俺を倒せるとは思わないことだな」 言いながら地面に突き刺さったパーフェクトゼクターを引き抜き、さらに背後から飛んできた誘導弾3発に向かって横一線。 真っ二つに斬られた誘導弾はまた地面へと落下する。 これで残りの誘導弾は5発。それらを全て撃墜するために、ハイパーカブトはパーフェクトゼクターを勢いよく振るう。 『Gun Mode(ガンモード)』 それによりパーフェクトゼクターのグリップ部が曲がり、ガンモードへと変型する。 ガウン!ガウン!ガウン!ガウン! そのままパーフェクトゼクターから小さな赤い光弾を発射。 4発発射した弾は全てアクセルシューターに命中し、砕け散った。 残る誘導弾はあと一つだ。 「当たれ……!」 なのははラスト一発のアクセルシューターをハイパーカブトの左方向から高速で飛ばすが…… 「甘い……!」 ハイパーカブトは飛んできた誘導弾を左手で受け止め、そのまま「グシャッ」と握り潰す。 「やっぱり、こんなのじゃ倒せないか……」 『次、行きましょう』 なのははすぐに次の攻撃のモーションへと入る。 なのははすぐに空に飛び上がり、レイジングハートをハイパーカブトに向ける。 対するハイパーカブトもパーフェクトゼクターを再び大きくスイングさせ…… 『Sword Mode(ソードモード)』 元のソードモードへと変型させる。 さらにどこからかサソードゼクターが飛来、そのままパーフェクトゼクターに合体する。 「行くぞ……!」 ハイパーカブトはサソードゼクターが合体したパーフェクトゼクターを遥か上空にいるなのはに向かって振るう。 「……まさか!」 『遠距離からの斬撃です』 なのはもまさか地上にいるハイパーカブトが剣で自分を攻撃するとは思っていなかった。 なのはに向かって真っ直ぐにとんでくるのはポイズンブラッドを濃縮し、刃の形を作ったエネルギー体だ。 なのははすぐにその場所を離れるが、ハイパーカブトはまるでサソードの様にパーフェクトゼクターを振るい続ける。 「……このまま回避しながら接近して、大きいのを撃ち込めれば……!」 なのはにはなのはの考えがあるらしく、むやみに回避しているように見えてそうでないのだ。 「(ほぅ……そういうことか……)」 なのはの回避の軌道を読んだハイパーカブトも、相手の思惑に気付く。 段々と距離を縮められており、このまま行くと、あと数秒で間合いを詰められるかもしれない。 「(ならば……)」 ハイパーカブトはパーフェクトゼクターを振り回すのを止め、なのはに構える。 「行っけぇぇぇーーーッ!」 「チッ……!」 だがなのははハイパーカブトの目前で一気に加速。天道の予測は外れ、一瞬でハイパーカブトのレンジに入ったのだ。 『Flush Impact』 「…………!」 もちろん天道もそれを黙って受ける訳にはいかない。なのはの攻撃をパーフェクトゼクターで受け止める。 「また受け止めた……!?」 『Sasword Power(サソードパワー)』 その状態のままハイパーカブトはグリップ付近のボタンを押し、パーフェクトゼクターは紫に輝く。 「ハイパースラッシュ!!」 「えぇ……!?」 カブトはそのまま紫に輝くパーフェクトゼクターをなのはに振り上げる。 『Protection,EX』 それを防ぐためにレイジングハートは防御魔法を発動。カブトのハイパースラッシュを見事に受け止める。 だが…… 「(この攻撃……重い……!)」 ぶつかり合うバリアとパーフェクトゼクター。 例え強化したプロテクションでもハイパースラッシュを受け止めるのには少し無理がある。 「なら……これで!」 『Barrier Burst』 レイジングハートが『バリアバースト』と告げると同時に、バリアに魔力が収束され…… 「何……!?」 そのまま表面が爆発。ハイパーカブトはその衝撃に吹っ飛ぶ。 「ディバイィィィン……」 さらにハイパーカブトが吹っ飛んだスキに大技のチャージに入るなのは。 「させるか……!」 『Gun Mode,Kabuto Power(ガンモード、カブトパワー)』 パーフェクトゼクターを「ガシャン!」とスイングし、同時に赤いボタンを押す。 「……バスタァーーーーッ!!!」 「ハイパーキャノンッ!!」 『Divine Buster,Extension』 『Hyper Cannon(ハイパーキャノン)!!』 ディバインバスターの発射と同時に、パーフェクトゼクターの銃口から凄まじい威力の荷電粒子砲が発射される。 「く……ッ!」 「なんて威力なの……!?」 二つの砲撃がぶつかり合い、衝撃で大爆発が発生する。 お互いに凄まじい威力の技であったためにその衝撃も相当な物で、なのはもハイパーカブトも一瞬目を背ける。 「流石天道さんだね……やっぱりそう簡単には墜ちてくれないか……」 『まだ十分勝機はあります。』 「そうだね、レイジングハート。頑張ろう……!」 なのはとレイジングハートはお互いを励まし、ハイパーカブトを見据える。 「高町なのは……確かにそこらのワームよりは格段に強いな……だが……!」 天道は再びパーフェクトゼクターを構える。 「お前の動きは既に見切った……!」 『Drake Power(ドレイクパワー)』 今度はドレイクゼクターを合体させ、青のボタンを押す。 「ハイパーシューティングッ!!」 『Hyper Shooting(ハイパーシューティング)』 ハイパーカブトがパーフェクトゼクターの引き金を引くと同時に、 ドレイクゼクターのツインバレルに収束された赤い光弾が発射される。 『危険です。』 「うわっ……!!」 なのはは高速で飛んできた光弾を何とか回避するが…… 『誘導弾です。』 「え……!?」 その弾はUターンし、なのはへと向かって来る。しかも、それだけでは無い。 「分散したぁ!?」 ハイパーシューティングにより発射されたエネルギー弾は、自動的に分散し、ターゲットを追尾する能力を持っているのだ。 「ダメ、振り切れない……!!」 なのははしばらく回避を続けながらハイパーシューティングのしつこさに愚痴を漏らしていた。 どこまで逃げても追い掛けてくる。しかも光弾は威力(密度)も高い為に、生半可な技では落とせないのだ。 ディバインバスターを撃とうにもチャージの途中でハイパーシューティングの餌食になるのが関の山だ。 「……こうなったら……!!」 なのははこの状況を打開する何らかの策を閃いたらしく、一気に高度を上昇させる。 空を見上げるハイパーカブト。 「何をする気だ……高町……?」 なのはは一気に雲の上まで飛び上がり、もはや地上からは見えない高度にまで達していた。 そして次の瞬間、なのはがいると思しき場所で眩ゆい爆発が発生する。 それは間違いなくハイパーシューティングによる爆発だ。 ハイパーカブトも「やったか?」と空を見るが…… 「な……!?」 なんと、雲の上から凄まじい威力の閃光がハイパーカブト目掛けて飛んでくるのだ。 雲はその閃光を中心に裂け、衝撃で周囲に拡散している。 「うわぁああああッ!!」 余りにも意外な砲撃に言葉を無くした天道は、そのまま桜色の閃光に飲み込まれる。 「やった……かな……?」 なのはは「はぁ……はぁ……」と息を切らしながらハイパーカブトを見る。 バリアジャケットはボロボロに傷付き、あちらこちらが破れてしまっている。 こんなにもズタボロにされたのは3年前のヴィータとの戦い以来か…… 『マスター、さっきの行動は危険すぎます』 「にゃはは……どのみちカブトのハイパーシューティングを防ぐにはディバインバスターを使わなきゃならなかったんだ…… なら一発の魔法を防御に使うよりも、攻撃に使った方が少しでも勝てる確率が上がるからね……」 『これで倒せなかったら凄まじい無駄骨です。』 なんとも目茶苦茶な理屈だが、なのはらしいと言えばなのはらしい。 どうせディバインバスターを撃とうとすれば大なり小なりハイパーシューティングを受ける事になる。 ならば一発でも多く攻撃を入れる事に専念したと言う訳だ。 「ク……目茶苦茶しやがって……!!」 ハイパーカブトは少しよろめきながらも立ち上がる。 空を見ればボロボロになったなのはが地上100m程の高度からこちらを見下ろしていた。 天道にしてみればこんな目茶苦茶な戦法を取る相手は始めてだ。それもまだあんなに幼い少女が。 「レイジングハート、もう天道さんを倒すにはアレしか無い……!」 やはりディバインバスターを直撃させただけではカブトを倒すには至らない。 ならば全力全開の最大技を叩き込むしか無い。 『スターライトブレイカーですね?』 「……うん。これで、決着をつける……!レイジングハート、カウント!」 『All Light Count……』 これで全てにケリを付ける。 今のハイパーカブトを倒せるとすれば、その可能性があるのはスターライトブレイカーだけだ。 レイジングハートはスターライトブレイカーのカウントに入る。 「なのは……!!」 その頃、フェイトは遅れながらもなのはと合流しようと、猛スピードで空を翔けていた。 『フェイトちゃん、急いで!もうなのはちゃん、ボロボロだよ……!』 エイミィから入った通信に、フェイトは冷や汗を流す。 「お願い……無事でいて……!!」 『Eight……Seven……』 「……どうやら本気の様だな」 レイジングハートのカウントはカブトの耳にも届いていた。 このただならぬ雰囲気からして、恐らくなのはの最大技だろう。 「ならば、俺も容赦はしない……!」 『Maximum Rider Power(マキシマムライダーパワー)!!』 ハイパーゼクターのゼクターホーンを押し倒す事で、カブトの体にマキシマムライダーパワーがチャージされる。 『Six……five……』 『Kabuto,Thebee,Drake,Sasword Power(カブト、ザビー、ドレイク、サソードパワー)!!』 三方向から飛来した三つのゼクターは、パーフェクトゼクターに合体し、パーフェクトモードへと変形する。 『Four……Three……』 『All Zecter Combine(オールゼクターコンバイン)!!』 同時にハイパーカブトの背中から光の翼が出現し、胸部を始めとする全身の装甲が変形を始める。 『Two……One……』 『Maximum Hyper Typhoon(マキシマムハイパータイフーン)!!』 ハイパーカブトは巨大な光子の刃を形成したパーフェクトゼクターを構え、今にも飛び上がりそうな姿勢に入る。 『Count……Zero!!』 「全力全開!スターライト……ブレイカァーーーーーーッッ!!!」 掛け声と共に、なのはのレイジングハートから凄まじい威力の砲撃が放たれる。 なのは自身も反動で吹っ飛びそうなくらい、とんでもない威力の魔法だ。 「マキシマムハイパータイフーンッ……!」 スターライトブレイカーの発射とほぼ同時に、ハイパーカブトはタキオン粒子で形成された光の翼で、空に飛び上がる。 そして次の瞬間、ハイパーカブトは凄まじい効果音と共にスターライトブレイカーの光に飲み込まれた。 しかし…… 「そんな、まさか……スターライトブレイカーが……切り裂かれてる……ッ!?」 なのはの目に映っているのは、ハイパーカブトがスターライトブレイカーの光の中で 赤い大剣を突き立て、逆にこちらに昇って来るという有り得ない光景だった。 つまり、ハイパーカブトはパーフェクトゼクターでスターライトブレイカーを切り裂きながら突進しているという事だ。 「はぁああああああああッッ!!!」 マキシマムハイパータイフーンでスターライトブレイカーを切り裂いたハイパーカブトはついになのはの目前まで迫っていた。 なのはは開いた口が塞がらないままハイパーカブトを凝視している。 まさか自分にとって最強技であるスターライトブレイカーが破られる等とは夢にも思っていなかったのだろう。 「たぁーッ!!」 カブトはそのままマキシマムハイパータイフーン状態のパーフェクトゼクターをなのはに振り下ろす。 『Protection,EX』 マスターのピンチに、レイジングハートは咄嗟にプロテクションを発動。 しかしそんなことでハイパーカブトの勢いが止まる訳は無く…… 「レイジングハート!?」 ハイパーカブトが振り下ろした大剣は、レイジングハートの柄に食い込み、一瞬で真っ二つに叩き斬る。 しかしそれで終わる事は無く、カブトはその状態からパーフェクトゼクターを上方向に振り上げたのだ。 それによりレイジングハートの柄は二カ所で切断され、バラバラになってしまう。 「なのは……!?」 フェイトは自分の目を疑った。 やっと到着したと思ったら、なのはのスターライトブレイカーが目の前で真っ二つに切り裂かれているのだ。 さらになのははバリアジャケットまでボロボロに傷付いており、トドメと言わんばかりにレイジングハートをバラバラにされている。 それでもハイパーカブトは止まる事無く、パーフェクトゼクターを振りかぶっている。 ダメだ。 このままではなのはが殺されてしまう。 「なのはーーーーーーーーーーッ!!」 フェイトは今にも泣き出しそうな顔で親友の名を叫んだ。 「たぁッッ!!!」 そしてハイパーカブトは、トドメのマキシマムハイパータイフーンをなのはへと縦一線に振り下ろした。 次回予告 たった一人の妹…… 例え血が繋がっていなくても、人間でなくても、妹である事に変わりは無い。 大切な人を守るためなら、世界を敵に回してもいい。 そして、ついに一つの小さな事件に決着が着く。 次回、魔法少女リリカルなのはマスカレード ACT.14「たった一人の妹」前編 にドライブ・イグニッション! スーパーヒーロータイム その頃の良太郎。 良太郎「だから僕じゃないんですってば~」 クロノ「ああもう……いい加減にしろ!泣きたいのはこっちだ!」 エイミィ「あらら……二人とも泣いちゃったよ……」 リンディ「ほらほら、泣かないの!男の子でしょ?」 クロノ「う……か、母さん……」 R良太郎「お姉ちゃぁ~ん……」 クロノ「お前、母さん……もとい艦長に馴れ馴れしいぞ!!」 良太郎「へ?一体何が……?」 クロノ「とぼけるな、この!」 良太郎「あぅ……痛いよ、ちょっと待ってよぉ~」 はやて「何やコイツら……?」 戻る 目次へ 次へ
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本能に抗え! そして飛べ! 編 機動六課がヴィヴィオと言う小さな女の子を保護した。 その後、何故か機動六課で世話する事になってしまい、しかもヴィヴィオは なのはとフェイトの事を「まま」と呼んでいたりした。 小さい子供であるヴィヴィオにとって身の回りにある全ての物が新鮮に感じ、 歳相応に好奇心旺盛な所を見せていたのだが、その際に桜花にも近寄っていた。 「わ~いろぼっとだ~、ろぼっとのおねえたんだ~。」 「私に近寄るな! 死ぬぞ!」 桜花はヴィヴィオに対し右手を突き出して止めながら、さらに左手で 頭部兜の桜三型光学熱線砲である日の丸を覆い隠していた。 桜花がこうなった理由はヴィヴィオが金髪な事にある。金髪=敵とプログラムされている桜花は ヴィヴィオを敵として認識してしまう。それでもミッドチルダで暮らすようになった後で 学んだ要素によって敵と認識してはいけないと言う感情も桜花の中には存在していた為、 「敵として殺さなければならない」と言う感情と「その様な事をしてはいけない」と言う感情の 間で葛藤していたのである。でもこれでも自制しようとするだけまだマシな方である。 フェイトなんか未だに熱線撃たれてるし。 「と…とにかく逃げろ! 今直ぐに逃げろ! じゃないと…私はお前を殺してしまうぅぅ!!」 「うわぁぁぁん! ろぼっとのおねえたんこわいよ~!」 自分の本能を必死に抑えようとするあまり、物凄い形相になっていた桜花に ヴィヴィオは本気で怖がって逃げていた。 「ハァ…ハァ…なんとか抑えられた…。これでなのはお姉様に怒られずに済む…。」 桜花は片膝を付いて息を荒くさせていた。彼女にとって下手な戦闘よりも 自身の本能を自制する事の方がよっぽど辛かった。そのくせ… 「寄るな敵国人!」 「ギャウ!」 やはりフェイトはたまたま近くを通りがかっただけなのに熱線で撃たれてしまうのであった。 「どうしてフェイトさんやヴィヴィオには反応してしまうのに、ユーノさんは平気なのかな? ユーノさんだって金髪なのに…。」 何気無くスバルが桜花にそう訪ねるが、桜花はこう言った。 「どうしてかは私にも分かりませんが…何故かあの人だけは金髪なのに撃てない… と言うよりむしろ撃ってはいけない何かを感じてしまうのです…。」 「そ…そう…。」 やはり理由がかなり曖昧だが、まあユーノに対しては平気と言う事だけは分かった。 機動六課において隊員達の食事を作ったり、衣服を洗濯したり、部屋の掃除をしたりするのが 桜花の重要な仕事である。と言うか下手に戦わせると強すぎて余計な被害を出してしまう。 出力を制御しようとして原子炉に手を加えようとしても、逆に原子炉から放射能漏れを 起こしてしまいかねないし、とにかく桜花はそっち方面の仕事を頼まれていた。 桜花は機動六課から出たゴミをゴミ捨て場に運んでいた。その中にはさり気なく 過去の戦闘で破壊したガジェットの残骸なども混じっている為、相当な重量になっているのだが、 桜花はそんなの全く構わずに平然と運んでいた。 「あ、なのはお姉様達今日もやってる。」 ゴミを捨て終わった後、桜花は機動六課の訓練が行われている事に気付いてそっちに見入っていた。 普段とても優しいなのはも訓練ともなれば厳しい。特にティアナを頭冷やさせた時など 流石の桜花も背筋が絶対零度にまで凍り付いた物だ。しかし、そこまでやった事にも なのはがかつて無理をした事が原因で生死の境を彷徨った過去があったからと言う事を 知った時は桜花も納得した。だからこそいざとなれば自分が守ると密かに考えていたのだが、 もう一つ思う事があった。 「私も…空…飛びたいな…。」 残念ながら桜花は陸戦用に作られているらしく、飛行機能は持っていない。 だからこそ空中を自在に飛びまわれるなのは達に憧れを抱くのは当然の事かもしれない。 「いいな~私も空を飛びたいな~。でもなのはお姉様達が超音速戦闘機なら 私は重戦車…やっぱり無理な話なのかな…私は魔法と言うのも使えないし。」 桜花は少々落ち込んでいたが、かと言って魔法があれば飛べる物では無い事は分かってた。 実際スバルやティアナらは飛べない。それになのはなら桜花にこう言うだろう。 「重戦車と超音速戦闘機は使用用途が違うからそれぞれ自分向きのやり方をすべき。」 そこも桜花としても理解出来る。なのはも砲撃に関してはトップレベルだが、 機動力格闘力で言うならフェイトの方が上であるし、超広域破壊と言う点では はやてが勝っている。人それぞれに得意分野が異なると言う事である。 だから桜花も頑丈な身体と超小型高性能原子炉から来る大馬力を生かしたやり方を 行えば良いと言う事なのだろうが… 「でも…やっぱり空飛びたい…。」 そう思う桜花であった。 仕事を全てとこなしながらも何だかんだでしょぼくれていた桜花を突然ヴィータが呼び止めた。 「おーい! 面白いビデオが手に入ったんだ! 一緒に見ようぜ!」 「びでお?」 「まあ良いからこっちに来いって!」 ヴィータは97管理外世界でさえDVDに取って代わられてしまい、今時すっかり珍しくなった (百円ショップには腐る程おいてあるけど)VHSを片手に桜花を自室まで連れ込んでいた。 『そ~らに~そびえる~くろがねのしろ~♪』 ヴィータに見せられたビデオは「マジンガ-Z」だった。 桜花自身ロボットであるから、こっち方面に興味を持つのだろうと言うヴィータの計らいであった。 その内容は世界征服を企むドクターヘルの送り込む機械獣の侵攻にマジンガーZと言う ロボットが立ち向かうストーリーなのだが、全身に多種多様な超兵器を内蔵し、 様々な状況に対応出来るマジンガーZも唯一飛行機能だけは持たず、敵の飛行型機械獣に 苦戦を強いられていた。 「やっぱり…飛べないとダメなんだな…。」 桜花は空からの攻撃に苦戦を強いられるマジンガーZの姿を自分に照らし合わせ、落ち込んだ。 だが… 「!?」 桜花の目が変わった。それはマジンガーZがジェットスクランダーと言う飛行パーツを 装備して飛行可能になり、飛行機械獣と互角以上に戦うシーンだった。 「これだ! この手があった! ありがとうございます! これで何とかなりそうです!」 「え? あれ? 何? え? おい何処に行くんだ!?」 突然立ち上がった桜花にお礼を言われたヴィータはワケが分からなかったが、 桜花はすぐさまにヴィータの部屋から出るなりヴァイスあたりから工具箱を借りて ゴミ捨て場へ走った。そして先程ゴミ捨て場に捨てたガジェットの残骸を掻き集めるのである。 「これを材料に飛行翼を作ろう!」 さり気なく桜花はこの手のメカ作りが上手い。 滅ばなかったIFを辿った並行世界の彼女は掃除機を改造し、自身の動力炉と 直結して動かす事で戦車はおろかマクロス級や月さえ吸い込む超強力掃除機を作っていた物だ。 さて、こちらの彼女はガジェットの残骸を基にいかなる物を作り出すのか… そうやって桜花あれこれ作っているとヴィヴィオがやって来た。 「ろぼっとのおねえたんなにやってるの~?」 ヴィヴィオは桜花が何を作っているのか興味津々な様子だったが、桜花にとっては大変だ。 「うわぁぁぁ! くっ来るなぁぁ!!」 桜花はとっさに両手で頭部の光学熱線砲発射口を押さえた。 何故ならヴィヴィオの金髪に反応して熱線を放とうとしていたからである。 ヴィヴィオはなのはに可愛がられているし、同じくなのはを慕う桜花としては ヴィヴィオを撃ちたくは無い。しかし彼女の根底に存在する本能(?)がどうしても 反応し、熱線を放とうとしてしまうのである。 「ねえどうして? どうしてきちゃいけないの?」 桜花の苦悩など知る由も無いヴィヴィオは構わずに近寄ってくる。 「だから来るなと言っているぅぅぅ!!」 ついに耐えられなくなった桜花は熱線を発射してしまう。しかし、それでも ヴィヴィオには当てさせまいと言う感情も働き、射線をずらしてヴィヴィオへの 直撃コースを避け、熱線はかなり遠くにあった高層ビルに直撃して崩れ落としていた。 「…と…これ以上近付くとあの建物の様になってしまうぞ…だから外で遊んで来い。」 「うんわかったよ~。」 やっとヴィヴィオが何処かに行ってくれたので桜花はほっと胸を撫で下ろしていた。 はっきり言ってヴィヴィオの相手は桜花にとって相当に気疲れする物である。 これがフェイト相手なら構わず熱線を撃っていた所であろうが。 何はともあれ、ヴィヴィオがいなくなった事で桜花は飛行装備作りに集中する事が出来たのだが、 これが後々大変な事に発展してしまうなどその時の桜花は想像出来なかった。 桜花の一言を真に受けたヴィヴィオは一人機動六課の外に遊びに行ってしまった。 そして、トコトコと歩いて行くヴィヴィオの様子を道に停車してあった車の中から 監視する怪しい影の姿もあった。 「あのガキを拉致すれば良いんですか?」 「おうよ。あのガキを拉致すればスカリエッティ博士から莫大な金を貰えるんだ。」 彼等は金に釣られた貧乏マフィア。金に困ってる所をスカリエッティに誘われて 大金と引き換えにヴィヴィオを拉致する依頼を受けた分かりやすい連中だった。 「でも何故やっこさんはあのガキを欲しがってるんですかね?」 「そんなの知るか。機動六課から出て来たって事はかなりのVIPって事なんだろうが…。 そこまで細かく考える必要はあるまい。とにかく行動開始だ。」 貧乏マフィアの二人は車から勇み外に出た。 「お嬢ちゃん? ペロペロキャンディーあげるからおじちゃんと一緒にこない?」 貧乏マフィアの二人はいつの時代の誘拐犯だ? って突っ込みをいれてしまう様なやり口で ヴィヴィオを誘おうとしていた。今時こんな手に引っかかる奴いねーよって思われていたが… 逆に古典的手法と化してしまった事で皆の記憶の中からも忘れられ、最新の手法よりも効果を 発揮すると言う事態となっていた。 「わ~いぺろぺろきゃんでぃ~。」 案の定ヴィヴィオはペロペロキャンディーを口に銜えて貧乏マフィアの二人に付いて行ってしまった。 ヴィヴィオがいなくなった事で機動六課では大騒ぎとなっていた。 「ヴィヴィオー! 何処に行ったのー!?」 機動六課のメンバー達が仕事をそっちのけで彼方此方を探し回っていた。 特になのはなど滅茶苦茶に必死である。 「何処にもいません!」 「便所にもいなかったぞ。」 本当に色んな場所を探し回ったのか、みんな息切れするような状況になっていたが、 それでも見付かる気配は無く、皆を余計に不安にさせていた。 「もしかしたら…外かもしれません…。」 そう言ったのは桜花だった。 「私のせいです…私が外に遊びに行くように言わなければこんな事に…。」 桜花は頭を抱えて自己嫌悪し始めた。自分の些細な一言がこんな事を 引き起こしてしまった事が許せなかった。が… 「何だ…外に遊びに行ってるだけか。」 「焦って損しちゃったな。」 「なら夕方になれば帰って来るよな。」 「え…。」 誰もが顔に笑みを浮かべ、桜花を責める者はいなかった。 「だからさ…自分を追い詰めるような事はしないで。」 「あ…ありがとうございます…。」 周囲の皆から直接フォローを受けて桜花も安心しかけようとしてたが… 「ヴィヴィオさんならさっきマフィア風の二人組に誘拐されましたが。」 「ゲェ――――――――――!!」 突然現れたとびかげの一言によって事態は急展開を迎えていた。 「って言うかこの人誰!?」 「最近管理局に出来たばかりの特務課の忍者とびかげさんや!」 はやてがそう説明してくれていたが、いつの間にかにとびかげが管理局に潜り込んでいたのは驚きだ。 「早く助けないと身代金を要求されちゃうかもしれませんよ~。」 「わ…やっぱり私のせいだ…私のせいだぁぁぁぁぁ!!」 桜花は頭を抱えながら近くの壁に頭突きを始めてしまった。 「私がうっかり外に遊びに行けなんて言わなければこんな事にぃぃぃぃ!!」 「わぁぁぁ!! やめてやめて!! 壁が壊れるよぉぉ!!」 って行った時には既に遅く、壁は桜花の頭突きで完全に破壊されていた。 「こうなったら私が責任を取ってびびおを助け出して来ます!」 「びびおじゃなくてヴィヴィオね。」 桜花はそのまま外へ走り去ってしまうが…そこでなのは達はある事に気付いた。 「あ…桜花にヴィヴィオ任せたら…むしろ桜花がヴィヴィオの金髪に反応して 熱線撃ったりするんじゃないかな~なんて…。」 「ヤッベェ―――――――――――!!」 「とにかく皆で桜花より先にヴィヴィオを救出しないと!!」 「機動六課出動や!!」 こうして桜花に遅れて機動六課も出動して行ったが、とびかげの姿はいつの間にか消えていた。 桜花はヴィヴィオを探して街中を走り回っていた。 「早く! 早く見付けないと!」 桜花は怖かった。ヴィヴィオがどうかなると言う事よりも、ヴィヴィオが大変な事に なってしまったが故になのはが落胆する事…それが桜花にとっては何よりも怖かったのである。 桜花が必死に走っていた頃、機動六課の皆様もヴァイスの操縦するヘリに乗って ヴィヴィオ探索に勤しんでいた。 「早く早く! あの子より先にヴィヴィオを見付けないと熱線でヴィヴィオが撃たれちゃうよ!」 「こっちだって全力で飛ばしてます!」 なのはは滅茶苦茶に狼狽しながらヘリの操縦桿を握るヴァイスへ催促を続けていた。 誘拐犯によってヴィヴィオが何かされるよりも、桜花に熱線を撃たれてしまう事の方が 遥かに恐ろしいのだから。 前へ 目次へ 次へ
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”人は私を見て「罪なき血を流す者」と呼ぶだろう。だが、それは如何なものだろうか? なぜなら血とは即ち流れてこそ初めて、深紅なる血と呼べるのだから” 薄靄が立ち込める中を掻き分ける様にして、低く重苦しいエンジン音の響きと共に地上本部のエンブレムが描かれた一 台のパトカーが速度を落としながら、おぼろげな明かりを灯す古い街灯の下を通過していく。 『23号車23号車。こちら本部、現在の状況を報告して下さい』 「本部、こちら警備課23号車。ただいま通報のあった現場周辺に到着。どうぞ」 『こちら本部。では現場を確認次第、引き続き報告をお願いします』 ヘッドライトの眩い光とルーフ部分の回転灯が放つ赤と青の輝きが暗闇を照らす中、その薄暗い車内では制服姿の女性 が外の様子を伺いながら、手に持ったマイクに向け今現在の状況を本部へと伝えていた。 新暦82年5月11日の午後19時23分を約10秒過ぎた頃 本部を通じ市民から銃声が聞こえたとの通報を受け、北部地区を管轄とする第15分署警備課で新人の指導にあたるベ テランの女性陸士レベッカ・ヴァイヨンは、その日が初めての任務となる新人のベルナール・フレッソン二等陸士が運転 するパトカーに乗り、メインストリートの外れへと到着する。 だが、その行く先で二人を待っていたのは...... 「本部了解。こちら23号車、これより周辺の捜索に入ります」 *リリカルxクロス~N2R捜査ファイル 【 A Study In Terror ・・・第三章 】 二人を乗せたパトカーは小気味良いアイドリング音を立て徐行しながら、北部地区のメインストリートでも、ひときわ 人通りの少ない区域へ入ろうとしていた。 「うぇ、な~んか気味悪いトコっすね」 「そうね……もしかしたら、ホントに幽霊が出るかも」 「止して下さい!こんな時に」 「冗談よベル坊や。フフッ♪本気にした?」 幾分か怯えた様子でハンドルを握るベルナールを、軽いジョークを交えながらレベッカが少し楽しげに冷やかしていた 時である。 その区域でも明かりの付く街灯が極端に少ない場所へと、彼女達の車が差し掛かるや否や助手席に座るレベッカの視線 が前方の、二人から向かって左側へと注がれる。 「ちょっと停めてベル」 「停めてって、見付けたんですか?何か……」 「良いから停めて!」 彼女の強い口調に押されベルナールは車をゆっくりと停め、そのままレベッカが凝視する方へと目を向けると、そこに は薄汚れた路地裏へと続く入口が見えた。 「もうちょっと先に、そこまで進めてくれる?」 「そこって、あの路地裏んとこまで?」 彼の問い掛けにレベッカが黙したまま頷くのを見たベルナールは、そのままアクセルを浅く踏みながらノロノロと車を 進め、そして路地裏のすぐ前まで来たところで静かに停車させる。 車が完全に停まり相棒がサイドブレーキを引く音を聞くと彼女は、助手席のリアウィンドウ越しに黒々と口を開く路地 裏の、外の明かりすら届かぬ程に真っ暗な闇の奥を凝視したままシートベルトを外し、注意深くドアを開けながら大型の フラッシュライトを手に外へと足を踏み出す。 「ちょ、ちょっと先輩!待ってください、僕も一緒に……」 「アンタはここに居て」 「でも一人で行っちゃマズいですって!」 「心配してくれるの?ありがとベル♪でも何かあった時この車に、誰かが居なきゃ応援が呼べ無いでしょ」 そう言ってレベッカは心配顔で見守る相棒に向けて軽くウィンクをすると車を降り、左手に持つフラッシュライトを灯 けて辺りを照らし他に注意すべきものが無いか確認した後、腰のホルスターから抜いた質量デバイス......口径9mmの 自動拳銃を手に路地裏へと踏み込んでいく。 っと暫く間を置いて...... 「止まりなさい!!」 彼女の持つフラッシュライトの眩い光が路地裏の奥を照らし、それと同時に車中で見守るベルナールの耳に、怒気を孕 んだレベッカの鋭い叫びが響いた。 「管理局の者です!今すぐ持ってる物を下に置き、両手を上げてゆっくり此方を向きなさい!」 暗闇の奥で遭遇した何者かに向かって彼女は、決して怖じる事無く強い口調で相手に対し投降を命じる。 だがその様子はライトを握って立つレベッカの黒々とした後ろ姿が妨げになり、彼女が誰と向き合っているのかは今ベ ルナールが居る位置からでは、はっきりとは確認できなかった。 「ここで何をしてるんですか?」 「……」 「身分証があるなら今すぐ……っ!?」 不審者の他に何かを見付けたのか、それまで職務質問をしていたレベッカの声が不意に途切れ暗がりの中で、彼女が照 らすライトの明かりが一瞬だが大きく揺れた。 っと次の瞬間! リアウィンドウが砕け車体が軋む音とともに突如として、ベルナールが乗るパトカーを凄まじい......それこそ車その ものがバラバラになって吹っ飛ぶかと思えるほどの衝撃が襲う。 突然の事に驚き狼狽しながらも彼は震える手でドアを開け、飛び出す様にして車から降りるとフラつく足取りで歩きな がら、いったい何起きたのか事態を確かめようとする。 外へと出たベルナールの眼に映ったのは、ドアからルーフに掛けて左後部座席の部分が大きく凹んだ惨たらしいパトカ ーの車体と、そこに深くめり込んだ大きく黒々とした物体だった。 だが辺りに立ち込める薄靄と近くに有った街灯が消えていたせいか、その時の彼には今目の前に横たわる物体が何なの かはすぐには確認できず、そこでベルナールはベルトから自分のフラッシュライトを取り出すと、その物体に向け点灯ス イッチを押した。 急な明かりに彼の瞳孔は委縮し、そこに照らし出された物が何なのか脳の思考が判断するまでに数秒の誤差が生じる。 だが、その数秒後ベルナールの、それも張り裂けんばかりの絶叫が夜の空気を震わせた。 フラッシュライトが放つ光の中に浮かび上がったのは、その引き締まった身体を髑髏の紋章が彫られたマシェット(山 刀)で串刺しにされ、人外ともいえる凄まじい力でパトカーに叩きつけられたレベッカの無残な骸だった。 変わり果てた姿で絶命したパートナーの傍でベルナールは、フラッシュライトを握りしめたまま言葉にならぬ声で神に ひたすら救いを請うばかりだった......っが ...... 「夜分に恐れ入ります巡査殿」 その声にライトを構えたまま彼が振り向いた時、そこには真っ暗な路地裏の前に立って自身の事を見詰める、背の高い 黒服の紳士の姿があった。 「御忙しい中まことに恐縮なのですが、ひとつお尋ねしたい事が」 コツコツと云う靴音と共に優雅に着込んだ外套の裾を揺らしながら近付き、その良く通る深みを持った声とメリハリの 利いた口調で話しながら黒服の紳士は、いきなり現れた正体不明の相手に怯え竦み上がる若い陸士の前へと立った。 「……ふ、ふぁ!ふ、は…ひ……や」 なんとか声を絞り出し目前に立つ相手に、何かを喋ろうとするベルナールだったが、それは全く言葉の体をなさず彼は まるで陸に揚げられた魚の如く口をパクパクさせるばかりだった。 そうして数秒間、いや実際にはもっと短かったかもしれない......だが彼にとっては永遠とも思える時間、自身を見下 ろす様にして立つ相手を前に、身動ぎすら出来ないベルナールに向かって紳士が徐に口を開いた。 「ここから五番街へ行くには、どの道を通れば宜しいですか?」 そこまでだった...... そこから先の記憶は完全なる空白に覆われてしまった。 そう任務初日だった新人二等陸士は、その夜に生まれて初めて恐るべき”モンスター”と遭遇した恐怖の為、立ってい た路上へと倒れ込んで失神してしまったのだ。 「仕方がありません。では、自分で探す事にしましょう」 やれやれと言わんばかりに溜息をつきながら黒服の紳士は軽く周囲を見回すと、そのまま気を失って倒れたベルナール を残して惨劇の場から薄靄の中へと悠然と去って行き、後にはスクラップ同然となったパトカーの中で無線の音が空しく 響くのみだった。 『こちら本部!こちら本部!23号車、至急応答して下さい!こちら本部!こちら本部!・・・・・・』 ****************************** 北部地区の外れで15分署の陸士二人が”黒衣の怪物”と遭遇していた時より少し前...... *ワザリングハイツ惨殺事件に関する検視報告 被害者 = ジョルジュ・ベナデッド(男性) 年 齢 = 52歳 職 業 = クラナガン市役所 文化美術振興課 取締役 直接の死因は咽頭部をナイフまたは、剃刀の様な鋭利な刃物で切り裂かれ、その際に喉の気管を切断され た事によって、呼吸困難に陥ったのが最大の原因であると推測される。 また身体の各所に細かな裂傷が多数確認できるが、これは被害者が死亡する以前に付けられた傷であり事 件の犯人が相手を殺害する直前まで、何らかの情報を引き出すため拘束した被害者に対し、時間を掛けて 拷問を加えた可能性が考えられる。 その書類に記載された文章は事件現場での記憶ともども、今や捜査官として百戦錬磨の猛者と呼ばれる一人となった彼 女ですら、戦慄させる程に凄まじい内容だった。 被害者は殺害された後、犯人によって手首の動脈ならびに静脈より筒状の物(これはゴム管または点滴用 のビニールチューブ等が考えられる)を使って体内の血液を全て抜き取られ、そのうえで胴体中央を胸部 より下腹部に掛け手早く切開され、ほぼ短時間の内に心臓と肺その他の臓器全てを摘出されている。 これらの一連の行為は医療に関する分野、どの臓器が身体のどの場所に収まっているか、あるいは動脈や 静脈と云った血管の位置がどこか等といった情報を正確に把握しておく必要があり、この事実から見ても 犯人は医学に関する知識、特に解剖学において極めて高度な技術と、豊富な経験を持った人物であると推 測できる。 なお摘出された臓器のうち被害者ジョルジュの心臓は、先に殺害された被害者の妻ミシェル・ベルナデッ ドの頭部より摘出された脳髄ともども、キッチンに置かれた大容量の圧力鍋の中より・・・・・・ そこまでが限界だった。 気が付けば彼女......ギンガ・ナカジマは地上本部内の広い休憩室で、目の前のテーブル上に置かれた報告書のファイ ルを閉じ、自身の額や襟元が冷たい汗で、じっとりと湿るの感じながら堅く眼を閉ざしていた。 そこに書かれた言葉の一つ一つ、そして各ページに添付された事件に関する写真やイラストの数々を目の当りにする度 彼女の脳裏には二日前に事件の現場となったマンションで見た悪夢の様な光景が過るのだった。 ”ダメ!こんな、こんな事じゃ......” 夜勤担当へ任務を引き継いだ警備課の陸士や、徹夜に備えて夜食を摂りに来た内勤の者達が世間話などをする中、窓際 の席に一人で座っていたギンガは、弱気に陥りそうな自分に心の中で喝を入れると、幾分か上がり気味になった呼吸が落 ち着くのを待ち、温くなったコーヒーを一口飲んでカップを置くと、心なしか震えの来ていた手でポケットからハンカチを 取り出して、額や首筋に掻いた汗を拭いながら何とか気を落ち着かせる。 先の事件に関する報告書を見たいと彼女が申し入れた際、108部隊の指揮官であり自身の父親でもあるゲンヤ・ナカ ジマ二佐から「あんまり無理をするな」と心配顔で釘を刺された時の言葉を思い出しつつ、一度は閉じたファイルを開き 検視結果の報告書をギンガが再び読み始めた時、その中に記載された奇妙な一文が彼女の目に留まった。 「・・・・・・竜涎香(りゅうぜんこう)?」 それは当日の昼過ぎに彼女が、分析班の研究室で担当者に勧められて嗅いだ例の”香り”の正体...... 竜涎香とは第97管理外世界に生息する大型の海洋生物「マッコウクジラ」の分泌物より抽出された、極 めて希少価値の高い香料であり、現在でも原産地に於いては原料一個が此方の通貨に換算し、おおよそで も数百万から、場合によっては数千万ミッドにも相当する高額で取引されている。 犯人のものとされる遺留品に付着していた香水は、この竜涎香を主成分に豊富な技術と経験を持つ腕の良 い職人の手で、厳選された様々な香料とともに念入りに調合された特注品であると思われる。 その聴き慣れぬ言葉こそは、事件の舞台となったマンション近くで発生した事故の現場で彼女が、妹のディエチととも に見付けた黒い布地に付着していた奇妙な香りの正体だった。 分析班が出した調査結果を目にしたギンガは、あまりにも謎の多かった犯人像を解き明かす為の、ささやかだが確実な 突破口が開けた様に思え、その得体の知れぬ不安でいっぱいだった胸中に明るい光が差し始めるのを感じる。 ......っと 「お疲れ様です姉上♪」 その呼び声に報告書から顔を上げたギンガの前に、警備課の制服を少し着崩した姿で、自身に向かってニッコリと笑い かける隻眼の少女が立っていた。 「お疲れ様チンク・・・・・・もう今日の仕事は終り?」 「えぇ、夜勤への引き継ぎは済みましたので。それより姉上は・・・・・・」 幾分か根を詰めていたせいか顔に疲れが出ていた姉を気遣いながら妹のチンクは、持っていたバッグを足元に置くと軽 い溜息と共に同じテーブルの向かい側へと腰を下ろした。 「姉上は、また今日も遅くなるのですか?」 「見ての通り、まだ帰れそうにないの」 妹からの気遣いに苦笑いで答えながら、持っていた報告書のファイルを静かに閉じるギンガ。 部隊の指揮官である父ゲンヤは別として妹たち、特に厚生施設を出てからは周囲に溶け込もうと健気に頑張るN2Rの 4人には自分が今、立ち向かおうとしている悪夢の様な現実は出来るだけ見せまいという彼女なりの気遣いだった。 「それより貴女はどうなの?今日の任務が終わったのなら・・・・・・」 「例によって、パトロールの相棒が今日の報告を書き終わるまで、ここで時間でも潰そうかと」 「あぁ~なるほど。じゃあ可愛い暴れん坊は、今日も元気だったわけね♪」 「相変わらずですよ。最近は不良グループ相手に張り合う様になったというか、もう顔見知りにまでなったというか」 「なんか、それはそれで大変そうね」 それまで胸の内で張詰めていた緊張が解れたのか、少しやつれ気味だったギンガの口元がほころび自然と笑顔になる。 ”最近はチンクも笑顔を見せる事が多くなった”そんな事を思いながら彼女が妹との会話を楽しんでいると、ややゲン ナリとした表情でショルダーバッグを左肩から下げた赤毛の少女が、だらしなくポケットに手を突っ込んだ姿で二人の元 へとやってくる。 「終わったよぉ~チンク姉ぇ、ってギンガも一緒かよ」 「こらノーヴェ!はしたないぞ全く。それに、そろそろ姉上の事をちゃんと……」 「もう分かってるよ!分かってるけど、なんかこう」 姉チンクの言葉を聞き、ポリポリと人差指で頭を掻きながら照れくさそうな表情で俯くノーヴェの仕草を、ギンガはゆ っくりと頬杖を突いて楽しげに眺める。 そうして顔を上げたノーヴェが二人と同じテーブルへと着いた時、そこに置かれていた報告書のファイルが彼女の眼に 留まった。 「なぁ……今日も遅くなるのか?」 「えぇ、そうなりそう。今ちょっと厄介な事件が起きてて」 その返事を聞いたノーヴェは視線をテーブルから自身を見るギンガへと移し、しばらく何も言わずに一番上の姉をジィ ーっと見詰めたかと思うと、少しムクれた表情で口を開いた。 「あのさぁギンガ、一昨日からずっと帰り遅いじゃん」 「だから、それは……」 「それに何かさぁ、やつれてるよ凄く。もう思いっきり無理してんのが見え見えなんだよ」 「……」 妹から思わぬ言葉を投掛けられたギンガは、思わず頬杖を突くのを止め返事をしようとするも、返すべき言葉が見付け られぬまま戸惑うばかりだった。 あの二日前の凄惨な事件現場を目の当たりにして以来、そんな悪夢を自分達が育った街にもたらした凶悪犯を追い、事 件解決に繋がる手掛かりを躍起になって追求あまり、気付けば自身の家族と過ごす時間を疎かにしがちになっていた。 「あのなぁ、言っとくが大変なのは姉上だけじゃなく……」 「そんな事ぐらい知ってるよ!」 横から釘を刺そうとするチンクの言葉を遮りながら、なおもノーヴェは真摯な表情をギンガに向けて話を続けた。 「でもさぁ、ここ最近は特に遅いだろ?おまけに顔見せても何かこう暗い顔ばっかだし、それにげっそりしてるし」 「やっぱり……分かるんだ……」 「そりゃ分かるよ!誰が見たって分かるよ、そんなの」 ノーヴェから自身の様子について指摘を受けたギンガは少し切な気に溜息を吐き、小さく肩を落としながら今の自分の 気持ちを素直に話そうとする......っが、そんな彼女を制するようにしてチンクが静かに口を開いた。 「それで、お前は何を言いたいんだ?ノーヴェ……」 「だからさぁ、昨日の晩スバルから電話があったんだよ。確かチンク姉も話したろ?」 「あぁ……確か近々、休暇が取れるとか言ってたな」 「その時に話したんだよ、一昨日からのギンガのこと。聞かれたもんでさぁ」 そこまで話すとノーヴェは二番目の姉へと向けていた視線を再びギンガの方へと戻すと、今度は彼女の眼を真っ直ぐに 見詰めた。 「そしたらアイツ…まぁ口ではさぁ、大丈夫だ見たいなこと言ってたけどさぁ。分かるんだよ」 「分かる、って?」 「見えるんだよ。目ぇ瞑ったら瞼の奥の方でさぁ、アイツが……」 本人は特に意識はしていなかったのかも知れない...... だが気付けば自身へと向けられたノーヴェの、その黄金色の瞳が心なしか潤み始めた様に見え、そんな妹の眼を見なが らギンガは何も言わず静かに黙したまま、不器用な......だが飾り気の無い素直な妹の言葉に、じっと耳を傾けた。 「アイツが…スバルの奴がさぁ、電話の向こうでシュンってなってる顔が見えてくるんだよ。だから……」 そこまで話した時、また俯き加減になっていたノーヴェが顔を上げると、そこには少し驚きつつも自身の事を優しく愛 おしげに見つめる姉たちの眼差しが...... 「か、か勘違いすんなよ二人とも!あ、アタシは別にその、アイツの暗い顔見てたらこっちまで……じゃなくてぇ!」 「じゃなくて、なに♪」 「そうじゃなくて、アイツの泣き言ばっか聞かされてるとアタシまで一緒に泣きたく……じゃねぇ!」 その場を何とか取り繕おうとしたいのか大慌てで喋り続けるノーヴェ。だか彼女がしどろもどろになって話すほど、自 身の手で墓穴を掘ってしまう結果となり、それを二人の姉達は何とか笑いを堪えつつ嬉しそうに眺めていた。 「あぁー、もう良い!チンク姉ぇ、あ、あアタシ先に行って着替えてっから。それと」 「分かってる、今の話は誰にも言うな。っだろ?」 「先・に・言うなぁ~!」 顔を耳まで真っ赤にしながらノーヴェは、ガタガタと音を立てて椅子から立ち上がると大急ぎで、その場を後にしよう ......っとするのだが、慌てていた為か彼女は危うく席を立とうとする他の陸士とぶつかりそうになったり、あるいは途 中で何かに躓きそうなったりと何処か危なっかしい足取りで、だだっ広い休憩室の中をヨタヨタと歩いていく。 その様子を見て堪え切れなくなったのかギンガとチンクが、思わず二人してクスクスと笑い声を漏らしたときである。 チンクが首から下げていたデバイスより緊急を告げるアラーム音が響く。それは相棒の持つデバイスも同じなのか、や っと辿りついたドアの前でノーヴェが今にも泣き出しそうな、なんとも情けない表情で二人の方を振返った。 そそくさとシャツの下からデバイスを取り出し耳障りなアラームを止めながらチンクは、その呼出し内容を確認すると 申し訳なさそうな表情で、目の前に座る姉ギンガへと顔を向ける。 「すいません姉上。どうやら……」 「行って、私はもう大丈夫だから♪」 何とか元気を取り戻した姉に見送られて席を立とうとするチンクだったが、そこで彼女は既に止めた筈の呼出しアラー ムが未だ聞こえている事に気付く。 やれやれと言いたげに苦笑いを浮かべながら、またシャツの中からデバイスを取り出すチンク。っが彼女のは既に自身 の手でアラームが解除されていた。 腑に落ちぬままチンクは持っていたデバイスを仕舞い、それとなく辺りを見回すと隣のテーブルに座っていた警備課陸 士の持つ携帯無線機からも、彼女のと同じ呼出しアラームが聞こえた。 そうこうする内に、また別のテーブルに着く陸戦魔導士が持つデバイスからも、更にはまた別の...... 遂にはギンガのデバイス”ブリッツキャリバー”からも呼出しアラームが聞こえ始め、気が付けば休憩室に居る全員い や本部内に居る、関係者全員の携帯無線や待機状態のデバイスからアラーム音が聞こえていた。 それが意味するのは...... 「姉上、これは……」 「まさか総員に、緊急招集!?」 ****************************** 『本部より全車に通達!犯人は五番街を南に向けて逃走中との報告が入りました。繰り返します!犯人は……』 車内の無線から緊急通信が響き、隊列を組むようにして北部地区へと入った本部警備課のパトカー十数台が、サイレン 音も高らかに華やかなネオンが輝く繁華街の中を、まるで夜の空気を突き抜けるかの如く猛スピードで疾走する。 同日の午後20時15分を約20秒は過ぎた頃...... 15分署からの応援要請を受け本部中央ならびに各分署の警備課、そして本部第108部隊と更には特別機動ユニット (通称”特機隊”)までもがフル装備で、本部より報告のあった北部地区五番街に向け出動した。 その際に「盛大なハンティングだ」などと皮肉を言った陸士が居た様だが、あながち間違いでは無かったと云える。 ただし”狩る側”だったのは管理局ではなく...... 『犯人の服装は黒い背広の上下に同じく黒い、マントと思われる上着を着込み鍔の狭い帽子を被っているとのこと』 「まさか、この犯人って……」 「服装からして多分、例の殺人狂かもな」 警備課とは別のルートから北部地区へと入った第108部隊の装甲車内で、その無線の内容を聞いていたギンガは、思 わず隣に座るカルタス陸尉と顔を見合わせた。 『なお犯人は発見時に15分署の陸士4名を殺害しパトカー1台を破壊、また追跡時には陸戦魔導師3名を殺害した模 様。五番街周辺を巡回中のパトカーは充分に警戒されたし!』 「何なんだよコイツ、まさかアタシらと同じ……」 「いや分からんぞ!だが常人じゃ無い事だけは確かだ」 同じ無線を聞き、現場を目指して疾走する警備課パトカー隊の一台、その運転席に座るノーヴェは不安げな言葉を呟き それを戒めるチンク自身も己の胸中に湧き上がる得体の知れぬ不安に表情を曇らせていた。 「だいいち戦闘機人にしては、やり方が派手で乱暴過ぎる」 「なんで乱暴過ぎるって分かる?」 「昨日ディエチから聞いた事故の話でだ。何でも一昨日(犯人と)同じ服装をした人物が、幹線道路を無理に横断しよ うとした揚句に、突進して来た車を素手で破壊したんだそうだ」 「ちょ、す、素手っ!?そんなのアタシ等でもムリじゃん!」 姉の口から語られる言葉に驚きの声を上げるノーヴェ。 確かに犯人が自分たちと同じ戦闘機人ならば、何らかのISを起動して事故を回避するだろうし、何より人目につきや すい幹線道路で、大騒ぎを起こす等と云う目立った行動はしないからだ。 「じゃ、じゃあきっとマリアージュみたいな・・・・・・」 「だとしても、無線で聞いた限りだが行動に感情的な部分が目立つ」 「感情的!?」 「あくまで私の推測だが、奴は……」 幾分か震える声で改めて尋ねる妹に対し、それに返事をしながら姉のチンクが一瞬だが、含みを持たせる様な間を置い て険しい表情で彼女が発した次の言葉を聞いた時、ノーヴェは思わず絶句し、ゴクリ!っという唾を飲み込む音が車内で 不気味に響いた。 「……楽しんでる」 その一言が姉の口から零れ落ちた時、妹のノーヴェが運転席のシートに身を預けたまま、その背筋に奔る冷たい悪寒に 思わず身を震わせた。 もしそれが本当だとすれば、これから自分たちが立ち向かう相手は人の姿をした、想像すら出来ぬ程に凶暴で冷酷残忍 な”モンスター”と云う事になるからだ。 ピーンっと張り詰めた緊張感が二人の乗る車内を支配する中で、本部警備課パトカーの車列は繁華街を抜け、いよいよ 北部地区五番街......そこの洗練されたビルが立ち並ぶオフィス街へと差し掛かろうとしていた。 静まり返ったビルの谷間に数え切れぬほどのサイレン音が木霊し、青みを帯びた闇と共に街並みを支配していた夜の空 気を、慌しく揺さぶり掻き分けるかの如く、十数台にも及ぶパトカーが疾風の様に走り抜けようとした時である。 「……ディエチからだ。」 「今っ?アイツなんて言ってる?」 その険しい視線を前方へと向けていたチンクの元へ姉妹(戦闘機人)同士のリンクを通じ、その時一番に現場近くへと 到着していた、妹のディエチから連絡が飛び込んできたのだ。 「犯人を追跡してる上空で、ウェンディが空戦魔導師を何人か見たと言ってる」 「空戦魔導師……って、それウチ等じゃなくて本局じゃん!出動の時そんな話聞いて無かったよ」 「ちょっと待て、隊長に確認してみる」 妹の一人が現場で目撃した事実に関して報告する為、すぐさまチンクが無線のマイクへと手を伸ばした時、まるで地響 きの様な、それも多数のサイレン音すら掻き消す程に凄まじい轟音が辺りの空気を揺さ振る 「チンク姉、あれ見て!」 妹の声に前方へと目を向けた彼女の眼に遥か前方......ちょうどオフィス街の中央と思しき辺りに規模は小さいものの それこそ夜空を焼き尽くさんばかりの勢いで、真っ赤な火柱が幾つも立ち上る様子がハッキリと見えた。 「あれは、まさか……っ!」 まだ現場まではかなりの距離が有るとはいえ車中から、肉眼で確認できる程に凄まじい爆発を目の当たりにしたチンク は、その黒い眼帯の奥で既に無くした筈の右目が、ジクリ!っと疼くのを感じた。 その疼きは現場が近付くにつれて小さな痛みとなり、やがて彼女の胸の奥へじわりと響き始める。 それは、まるで”何か”が彼女を招く呼び声の如く...... ・・・・・・Until Next Time
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襲撃から一夜開け、被害を免れた一部の地上本部局員は本局と連携をとり事態の収拾に着手していた。 そして、その甲斐があってか崩壊した機動六課隊舎の瓦礫を早急に除去、避難シェルターの入口を発見し無事救助 更に近くに倒れていたフォワード陣もまた早急に聖王医療院へと搬送された。 一方でスバルの後を追っていたティアナは右腕に怪我を負って倒れているスバルを発見、 ティアナは傷口を見るや否や先端技術医療センターと連絡を取り、その後に現れた搬送車によって搬送、ティアナも同行者として乗り合わせた。 そしてなのはの身を案じていたフェイトは医療院に辿り着くと、うつ伏せの状態で倒れているなのはを発見、 すぐさまなのはを抱え医療院に向かうと院内ではヴァイスとシャッハが治療を施されてる姿があり、 フェイトは二人から事情を聞き、ヴィヴィオが攫われた事を知るのであった。 リリカルプロファイル 第二十二話 扉 …事件から一週間が経ち、ミッドチルダ全土は今回の事件で持ちきりな状態が続いている。 マスメディアの一部はスカリエッティの所業、管理局の失態などを取り扱っているが、その多くは最高評議会の声明を取り扱っていた。 最高評議会は神の三賢人と呼び名を変え、巨大な次元航行船ヴァルハラにてミッドチルダ全土を破壊すると宣告した。 つまり“未曾有の危機”は彼等三賢人の手によって起こされるという事を指し示す声明である。 その事をマスコミは管理局には責任があると報じるが、管理局側は今回の事件は最高評議会の独断による声明で、我々管理局の意向ではないと表明した。 そしてその意を民衆に伝える為、三賢人が関わる事件に関わった人物の逮捕に勤めていた。 今まで三賢人に関わる事件は改ざん、削除、抹消されていたのだが、 ある男の死によって無限書庫に存在する事件簿の情報が復活を遂げ、その情報を基に次々と逮捕する事が出来たのである。 そして今回の逮捕劇の要であるこの情報は功労者の名を取りレジアスレポートと呼ばれるのであった。 話は変わり此処聖王医療院の通路に右手には花束、左手にはフルーツの盛り合わせが入ったバケットを携えたフェイトが歩いていた。 フェイトは今回の事件で負傷・入院をしたエリオとキャロ、そしてなのはの見舞いに来たのである。 そして暫く通路を歩きエリオとキャロの病室に入るフェイト、 二人は窓側にキャロ、その隣にはエリオと並ぶように位置をとっていた。 『フェイトさん!!』 「二人共、お見舞いにきたよ」 そう言うと花瓶に花を生け、台にバケットを置くと二人の間に座るフェイト。 二人はフェイトの顔を見て明るい表情を見せるが、すぐに暗い表情を覗かせる。 二人は今回の戦闘で大きな傷を残していた、それは肉体ではない心の傷である。 ――元々…アナタ達に居場所なんて無いでしょ…―― 二人が対峙した少女、あの少女が放った言葉が今でも二人の心に深く刺さっている。 居場所……二人の居場所である機動六課隊舎は既にもう無い、それは即ち自分達の居場所はもう無いという意味と同義であると考え落ち込む二人、 すると二人の表情を見たフェイトは、椅子から立ち上がり二人に近づくと優しく頭を撫でる。 「大丈夫、私は此処にいる、二人の“居場所”はちゃんと此処にあるんだよ?」 フェイトの言葉に二人はフェイトの顔を見上げる、二人は何も一言もフェイトに胸の内を話してはいなかった。 しかしフェイトにはちゃんと二人の気持ちを理解していたのだ。 そしてフェイトは言葉を続ける、確かに隊舎は無くなってしまった。 でも“居場所”とは自分が“居る場所”だけを指し示している訳ではない、 自分が安心する・出来る所、つまり“拠り所”という意味も指し示していると優しく語る。 「…それとも私じゃ、二人の“拠り所”になれない?」 『そんなことありません!!』 二人はフェイトの問い掛けに声を合わせ力一杯否定する、自分達が此処にいるのはフェイトさんが拾ってくれたから、 もしフェイトさんと出会わなければ、自分達はずっと施設に居たかも知れない。 そう二人はフェイトに感謝の弁を述べると、自分達の心からある感情が湯水のように沸き上がる。 …自分達にはフェイトさんという“居場所”が“拠り所”あるんだ! そんな喜びと安堵の感情を感じた瞬間、二人の瞳から一筋の涙がこぼれ落ちる。 「あっあれ?……悲しく……ないのに…何で?」 「…人は安心した時にも…涙が出るんだよ?」 「…うぅ……フェイトさん!!」 フェイトの屈託のない笑顔に二人はフェイトの胸の中で泣き続け、二人の涙をその胸で優しく受け止めるフェイトなのであった。 そして二人は泣き疲れ眠りにつくと、フェイトは次の目的地であるなのはの病室へと赴く。 その時、向かい側からシグナムが姿を現す、どうやら同じく入院しているザフィーラとシャマルの見舞いを終え、 今度はヴィータの見舞いに向かうところのようである。 フェイトは軽く挨拶を交わすとシグナムは少し影を潜めた表情で返し、フェイトはシグナムの態度に首を傾げる。 するとシグナムはフェイトに、医者に言われた事を話し始める。 シグナムは二人の見舞いに来たところ医者に呼ばれ、二人…と言うよりヴォルケンリッターに関する変化が伝えられた。 本来ヴォルケンリッターとは夜天の書の一システムで、 騎士内でのリンクや主であるはやてから魔力を供給される事で得られる、無限再生機能などが上げられるが、 それらの機能は初代リインフォースの消失によって薄まる、もしくは消失していった。 だが、それらの事は前々から分かっていた事なのであるが、 今回は更に肉体の再生能力が低下し人に近いレベルにまでに至っているという。 つまりは重傷や致命的な傷を負えば“死”が訪れると言う事だ。 だが人に近づいたとは言え、その治癒力は高く、寿命や肉体の成長は起きないと付け加えられたと話す。 「そうですか…皆さんにそんな変化が…」 「あぁ…だがまぁいいさ、せっかく手に入れた“一度きりの生”だ、有意義に楽しむつもりだ」 そして今回の内容をヴィータにも話すつもりであると、人に近づいたとは言え肉体は成長しない… ヴィータはさそがし悔しがるだろうと、意地の悪い顔をしながら笑みを浮かべるシグナム、 その笑みに頬を掻き苦笑いをするフェイトであった。 シグナムと別れたフェイトは、なのはの病室に辿り着きベッドに近づくと、その姿は見受けられないでいた。 するとフェイトはベッドの隣に置いてあるハズの松葉杖が無いことを確認、 恐らく“アノ”場所へと向かったのだろうと判断すると病室を後にした。 此処は医療院の屋上、此処にはブランコや滑り台、砂場などがあり、まるで公園のような造りをしていた。 そしてその場所に存在するベンチにて右側に松葉杖を置き、 右手にはレイジングハートを握り締めた病院服姿のなのはが座り空を見上げていた。 なのはは今回の事件で使用したブラスターシステムの反動により、肉体・リンカーコア共にダメージが蓄積、 魔力は最大値の8%も低下し、肉体も松葉杖がなければ動けない程なのである。 その為此処医療院にて治療兼リハビリを受けているのだ。 そしてなのはの姿を見かけたフェイトは優しく声をかける。 「やっぱり此処にいたんだ」 「あっ…フェイトちゃん……」 フェイトの声に気が付いたなのはは、顔を向けるがすぐに空を見上げる。 その反応にフェイトの表情は少し陰りを見せるもなのはの隣に座る、そして暫く静寂に包まれると一つの風が二人の髪を靡かせる。 その風に髪を乱されたフェイトは、指で髪を解くと、なのはの口が開き始める。 「…私、ヴィヴィオを護れなかった……」 小さくか細い声で言葉を口にすると目線を下ろし遊具を見つめる。 なのはの目にはブランコを漕ぐヴィヴィオや、一緒に砂遊びをしているヴィヴィオの姿が幻影の様に映し出していた。 そしてそれらが蜃気楼の様に消え去ると、今度は目線をレイジングハートに変え握り締めると、ゆっくりと話し始める。 自分はヴィヴィオと約束した、ヴィヴィオを絶対護ると。 そして自分のモットーでもある全力全開でレザードに立ち向かった、 しかし結果はなす統べなく倒され簡単にヴィヴィオは攫われてしまった。 なのはは自分の弱さを歯噛みするも、もう自分には何も出来ないと諦めに近い表情を見せ話し続ける。 するとフェイトはベンチから立ち上がりなのはの前に佇む。 それに気が付いたなのはは顔をフェイトに向けると、辺りに乾いた音が響き渡る。 なのはは痛む左の頬を押さえフェイトを見つめると、フェイトは怒りにも悲しみにも似た表情を表していた。 そしてフェイトの怒号ともいえる声が辺りに響き渡る。 「しっかりしてなのは!そんなの…なのはらしくない!!」 「フェイトちゃん……」 フェイトの怒号の後に風が一つ激しく吹き収まると、フェイトは話し続ける。 十年前、なのはは自分と何度も対峙した、決して諦めずに自分を救おうと、そして友達になる為にも… はやてが闇の書に飲み込まれた時、決して諦めず救おうとしていた、 そして闇の書を消し去る時も管理局の切り札であるアルカンシェルを地上に向けて発射する事に対して、 決して諦めずに策を練り見事、闇の書を撃破した。 八年前の撃墜の時も、二度と飛べないかもしれないと伝えられても、決して諦めずリハビリを受け見事に復活した。 そんないつも諦めない不屈の心を持つなのはが吐く台詞では無いとフェイトは叫ぶ。 「攫われたのなら取り返せばいい、私の知っているなのははそう言う人のハズ……」 「フェイトちゃん……」 フェイトの叱咤の混じった励ましに俯くなのは、暫く沈黙が辺りを支配し 風が二人の髪を靡かせると、なのはは俯いたまま静かに言葉を口にし始める。 「ヴィヴィオ…今頃泣いているかな?」 「そうだね…アノ子は泣き虫だから…」 フェイトはそう言うと俯いたまま一つ笑みを浮かべヴィヴィオを思い返すなのは… 最初ヴィヴィオに出会った時はシャッハにデバイスで脅され泣いていた。 機動六課で引き取った時、ザフィーラの大きさに驚き、ジクナムの顔を見て泣き出したこともあった、 シグナムが珍しく落ち込んでいたのは見物だった… 聖王教会にて話を聞きに向かおうとした時、ヴィヴィオが泣きながら離れず困り果てた事もあった、 あの時程フェイトちゃんがいて良かったと思った事はなかった。 そして…ヴィヴィオは今でも自分を探して泣いているハズである。 そんな時に自分が塞ぎ込むわけにはいかない、ヴィヴィオは自分を待っているのだから! するとなのはは松葉杖を手に持つと歩き始める、その行動に思わずフェイトは声をかける。 「何処行くの?」 「リハビリに行ってくる」 今自分に出来る事は先ず、この体を満足に動かせるようにする事 そう話すなのはの瞳には不屈の炎が宿っていた。 その炎を見たフェイトは、歩幅をあわせなのはの後をゆっくりとついて行くのであった。 場所は変わり此処はゆりかご内に存在するスカリエッティの施設… 部屋ではレザードとスカリエッティがチェスを嗜んでいた。 スカリエッティは今こそ落ち着いてはいるが、一週間前は荒れに荒れていた。 それもそのハズ、スカリエッティは綿密に立てた計画を実行に移し、計画は順調に進み見事地上本部を壊滅させた。 そしてその光景を民衆に見せつけ管理局の無力さをアピールする算段であったのだが、 最後の最後に事もあろうに三賢人に回線を乗っ取られミッドチルダ壊滅を宣言されたのだ。 三賢人はスカリエッティが行っていた計画をお膳立てとして利用し、ミッドチルダの終焉をアピール 更にはヴァルハラと言う次元航行船を見せつける事で、絶望感を与えたのである。 最も忌むべき存在である三賢人にまんまと利用されたスカリエッティはモニターを叩き割るほどに怒りに震え、 その後のメディアの対応に新聞を破り捨てテレビを消すなどと、怒り心身といった状態が続いていたのであった。 「もう、怒りは収まりましたか?」 「……正直、ハラワタが煮えくり返るほどの怒りは残っているが、その怒りは奴らと出会った時に発散するよ」 それよりも今はヴァルハラの分析が優先だとスカリエッティは話しつつ城兵〈ルック〉を動かす。 スカリエッティの見解では、ヴァルハラは此処ゆりかごとほぼ同格の能力を持っていると考えている。 何故ならば、かつて三賢人はゆりかごの解析の為スカリエッティを此処に送り込むが、 スカリエッティはゆりかごを奪取し、此処を拠点としたのだ。 本来では三賢人は奪取されたゆりかごを血眼で探すのが普通であるのだが、捜索は簡単に打ち切られた。 それには訳があったのだ、その頃には既にゆりかごに取って代わるヴァルハラを建造していたのだろう。 つまり、ゆりかごを諦める事が出来る程の能力がヴァルハラにはあるとスカリエッティは考えていた。 すると今度はレザードが話し始める、ヴァルハラが陽炎の様に消えた技術、あれはまさしくルーンによる物だと。 つまりヴァルハラにはレザードの世界の呪法が使われているという事である。 レザードの話ではルーンの一部にはレザードの世界でも失われた呪〈ロストミスティック〉と呼ばれるほどの呪式が存在する。 それらが使えているということは、レザードと同じ世界から来た者がいるか、もしくは情報を持っていることを指し示す。 「成る程、それは厄介だ、ところでナンバーズとタイプゼロの方はどうなっているんだい?」 スカリエッティの質問に対し眼鏡を動かし騎士〈ナイト〉を動かすと説明を始めるレザード。 先ずナンバーズであるが、ノーヴェは失った右足の治療を終え現在リハビリを行っている。 次にチンクであるが体に違和感を感じている為、医療ポットで治療、今はそれも終え元気に模擬戦を行っていると。 次に回収した戦闘機人を調査したところ、我々が造り出した戦闘機人とは全く異なり、人に近い造りをしているという。 そして失われた左手はギミックアームとして修理を施し、更に洗脳までも施したのだが、 只の洗脳ではなく心の奥底に存在する感情を利用していると語る。 「彼女の奥に潜む感情……それは自分が地味であるという事 即ち、彼女の地味な性格を利用する事により、もっと目立ちたいという感情を芽生えさせ その結果、派手な破壊工作を行う事が出来るのですよ……」 「…………それは…冗談かね?」 「…………当然、冗談ですよ」 手を広げ肩を竦めるレザード、その態度に頭を押さえるスカリエッティ、 レザードの説明はリアリティがありすぎると窘めると、レザードは眼鏡に手を当て本当の説明を行う。 彼女の根底にある感情、それは妹に対しての愛情、それを引き出すことにより他のナンバーズと連携をとれるようにしてあると語る。 論より証拠、取り敢えず見て欲しいと言わんばかりにレザードはモニターを開き、ナンバーズの様子を映し出す。 モニターにはナンバーズの一人、ノーヴェとギンガがリハビリを兼ねた模擬戦をしている姿や、 セインとウェンディと楽しく談話している様子、更にはオットーとディードと一緒に食事をとり、面倒を見ている様子が映し出されていた。 「………見事に順応しているね」 「えぇ、計画通りです」 ナンバーズには腹違いの姉……もとい生まれが違う姉と紹介したところ、以外とすんなり受け入れられた。 故に此処まで順応しているのだろう、と言うのがレザードの展開である。 「そう言えば聖王はどうです?」 レザードの質問に顔を曇らせるスカリエッティ、暫くすると大きくため息を吐き女王〈クイーン〉を動かし近況を報告する。 鍵であるヴィヴィオの肉体は幼くリンカーコアも弱い、其処でレリックを使って魔力を上昇させ、ゆりかごを起動させるだけの肉体と魔力を補うと話す。 するとレザードから一つの提案が生まれる、それはベリオンに搭載されているリンカーコアを使うと言うものだ。 だがゆりかごは聖王の“遺伝子”がなければ機能しないとスカリエッティが主張すると、更に話を続ける。 先程のスカリエッティの主張通り、ゆりかごを動かすには聖王の血筋、つまり“遺伝子”が必要である。 つまり別に聖王自身が必要というわけではない、“遺伝子”と言う鍵があればいいのである。 故にベリオンのリンカーコアと接続させたレリックからもたらされる魔力を、 “聖王の遺伝子”に通す事により“聖王の魔力”に変えゆりかごを起動させると言うものであった。 「可能なのかね?」 「理論上不可能では無いハズです」 リンカーコアとレリックの強制接続はゼストのデータを基に可能であり、 リンカーコアと“遺伝子”は人造魔導師と戦闘機人技術の応用で何とかなると、 そして“遺伝子”提供は鍵から手に入れればいいと眼鏡に手を当て話すレザード。 「……となると、あの“鍵”はどうするのかね?」 「まぁ、レリックウェポンとしても優秀ですから、戦力として使えるでしょう」 いざとなれば、ベリオンのサブとしても利用価値はあるとレザードは話す。 そしてレザードは笑みを浮かべ城兵を動かし、チェックメイトをかけるのであった。 それから一週間以上が経ったある日、此処聖王教会に存在する会議室では、今後の対策の為の会議が行われようとしていた。 会議室にはカリムを中心に右の席にはクロノとその側近であるロウファにユーノ、 左の席にははやてとその側近であるグリフィスにフェイトとリハビリにより、 体はある程度動けるようになったなのはの姿があった。 そして予定された時間になり会議が開始され、最初にカリムが語り始める。 今回、地上本部壊滅を防ぐことが出来ず、予言は覆らなかった。 更に三賢人の発言によりスカリエッティが“無限の欲望”であると判明、 それと同時にレザードが“歪みの神”であることは間違いないと話す。 そしてレジアスレポートにより復活した無限書庫に存在するデータベースにより、様々な事実が明らかにされたと語る。 そして議題は三賢人に関する内容に移り、ロウファが席を立ちモニターへと赴き説明を始める。 先ずはヴァルハラからの説明であるが、レジアスレポートを元に調査した結果、 ヴァルハラとはミッドチルダの魔導技術を基に、アルハザードの技術とロストロギアであるレリックを使った次元航行船であると言う。 レリックは本局と地上本部に保存されていた物を横流しする事により入手、 アルハザードの技術は三賢人が元々持っていた情報である可能性が高いと指摘、 だがアルハザードの技術の情報はレジアスレポートの情報だけではなく、“独自”のルートによる情報が功をそうしたとロウファは語る。 更にヴァルハラの性能は最新の次元航行船を大きく越えた性能を持つ、まさに現代の技術によって作り出されたロストロギアであると説明を終える。 次にエインフェリアであるが、此方にはルーンと呼ばれる技術が使われており、ヴァルハラと同じ扱いであると簡単に説明を終える。 次に今回の事件の発端でもあるスカリエッティに関する情報であるが、此方はグリフィスが席を立ち説明を始める。 今回の事件でティアナが入手したディスクとレジアスレポートの情報を基に奴らの場所を特定、聖王のゆりかごと呼ばれる次元航行船に存在すると説明する。 聖王のゆりかごとは、古代ベルカの王が使用していた質量兵器で当時は戦船と呼ばれた代物である。 「歴史的価値がある聖王のゆりかごが、このような形で表に出るとは悲しいことです」 「……その通りですね」 カリムの言葉に頷くユーノ、だがグリフィスは更に話を続ける。 ディスクの持ち主の話ではゆりかごにもルーンと呼ばれる技術が使われており、 ゆりかごの他にもヴァルハラ、エインフェリアの動力源に使われ、更には不死者の脳に刻まれた呪印もそうであるという。 このルーンの情報はレジアスレポートによって復活した無限書庫のデータベースを基に手に入れた魔導書によって解ったことである。 更に元々ルーンはロストロギアともアルハザードの技術とは異なる技術で、 無限書庫の奥深くに隠すように保存されていたという。 そしてこのルーンはスカリエッティ側、三賢人側、両方にもたらされている技術であることは間違いないと判断する。 「つまり…おんなじ技術が両方で使われているっちゅう事か……」 誰かが無限書庫の情報を横流ししたのか、それともただの偶然か… だがどちらにせよ、驚異である事には変わりがないと考えるはやて。 次に対策であるが、先ずカリムは居場所が特定されているスカリエッティの方から攻略を始めた方がよいと考えを述べる。 何故ならば予言を考慮すると三賢人は“神々の黄昏を告げる笛”が鳴り響くの待っている可能性があるためだ。 ゆりかごはルーンによって存在次元をずらされているのだが、無限書庫の情報により短い時間ではあるが、 ルーンを中和する事が出来ると判明、その間に潜入・大本であるルーンを解除するという。 その役はカリムの義弟であるヴェロッサと、彼が信頼する仲間が行うという。 次の対抗策であるが、戦力として教会騎士団も協力するとは言うが、一斉に黙り込む一同。 片方は現代の技術によって作り出されたロストロギアの塊で武装した三賢人… もう片方は過去に幾つもの世界を滅ぼしたロストロギアを保有した歪みの神と無限の欲望… この二大勢力に幾ら聖王教会から戦力を借りたとしても満身創痍の管理局が向かったところで勝ち目はない。 「本局に応援要請はでけへんの?」 「…本局は次に狙われる事を考慮して戦力を温存しようとしている、十中八九無理だな」 クロノの発言にそれぞれは落ち込む表情を見せる中、ユーノがそっと手を挙げる。 「現実的じゃないけど、手は無い訳じゃないんだ」 そういうと一つの本を取り出す、本の表紙には円に囲まれ中心には正三角形が均等に並ぶ魔法陣が描かれていた。 レジアスレポートによってもたらされた情報は何も最高評議会だけではない、 削除された為、永久的に解けなかった謎が解け、新たな情報に繋がる場合も存在していたのだ。 そしてこの本は、それによって表に出た本であると説明する。 無限書庫には二通りの情報の保存方法がある、先ずは物質による保存法つまり本である、 もう一つは無限書庫の奥の奥、原初の頃から存在する今でも解析不可能なエネルギーによる電子的な保存法である。 そして物質的な保存法であるこの本には特殊な力場によって時間劣化が起こらないように出来ているという。 恐らく表に描かれている魔法陣による効果であるとユーノは興奮するように説明すると、 周りの冷ややかな目線に気が付き、自重するように一つ咳をすると話を戻す。 この本の題名は流浪の双神と書かれ、ある神の話が書かれているとユーノは語る。 …双神は時間・世界・事象のあらゆる次元を渡り歩く放浪者… 神の名は男神ガブリエ・セレスタと女神イセリア・クイーン… 神は強き者を好み、自らが生み出した世界にて強き者を待っている… そして神が与えた試練を乗り越えた者のみ神と対峙する権利を得られる、 そして神にその強さを認められれば、神は力を貸すという内容なのである。 更にこの本には神の住まう世界セラフィックゲートへの扉の位置が記されているとユーノは語るとクロノが声を荒上げる。 「バカな!こんな世迷い言を信じろと?」 「僕も最初はそう思ったさ、でも此処に記載されている扉は実際に存在するんだ」 ユーノの一言に一同は動揺しざわめく中、話を続ける。 此処に記載されている場所の説明と今の地形、更にこの時代の地形を照らし合わせた結果、その場所は此処聖王教会の地下と判定、 そこでカリムの協力を得て調査すると近くに鍾乳洞があり、そこから地下数千メートルの位置に存在する空洞を確認、 其処には本の表紙に書かれている魔法陣が描かれていたという。 つまりこの本の信憑性が実証されたと言う事である。 神の世界への道は見つけた、次に誰が向かうのかであるが、はやては機動六課のフォワード陣を現地に向かわせる事を提案する。 しかしなのはだけには留守番をするように命じた、何故ならば未だ体が万全ではない為、治療に専念させる為にである。 しかし周りの制止を無視して自分も行くと聞かないなのは、 その瞳には決意と不屈の色が宿っており、はやてはこうなったなのはを止める事は出来ない考え、渋々了承する。 そして現場には明日向かうことで会議は終了、早速なのはとフェイトは今回の決議を他のフォワード陣に伝えるのであった。 その日の夜…、此処聖王教会の敷地内に存在する中庭にて、なのはが一人ベンチに座り物思いに呆けるように夜空を見上げていると、 そこに一つの影が姿を現す、なのははその影に気が付き目を向けると、其処にはユーノの姿があった。 「あっユーノ君…」 「お邪魔だったかな?なのは…」 ユーノの言葉に首を振り屈託のない笑顔を見せると、ユーノはなのはの隣に座る。 辺りは沈黙に包まれ、虫の鳴き声が静かに響き渡る中、静寂を優しく切るようにユーノの口が動き出す。 「……ヴィヴィオの事、考えてたの?」 「……うん」 ユーノの問いかけになのはは一つ頷くと静かに話し始める。 最初はあの男、レザードの言う通り同情の目でヴィヴィオを見つめていた。 しかし共に過ごしていく内に自分の心にヴィヴィオへの思いが広がっていった。 レザードはそれを同情から生まれたの優越感だと罵ったが、自分はそう思ってはいない。 自分の心に広がるヴィヴィオへの思い…それは絶える事無く募っていく。 自分の思いは本物である!そう確信した瞬間、心の底でヴィヴィオの母親になりたいと思うようになった。 そう語るなのはの目には迷いは無く、決心に満ちた色を宿していた。 「もう自分の想いに嘘をつきたくない!」 「そうか……それじゃあ僕も自分の想いに正直になろうかな」 「えっ?」 ユーノの言葉に驚き顔を向けると、ユーノの唇がなのはの唇に重なり合う。 暫く沈黙が続き唇を離すと、なのはは頬を染めユーノに目を向けると、 其処には男の顔をしたユーノ・スクライアの姿があった。 「なのは…愛しているよ」 「ユーノ……君」 「こんな時にこんな事を言うのは卑怯かもしれないけど…」 なのはが自分の想いに正直になったように、自分もまた、自分の想いに正直なろうと。 十年前に出会ってから、二人はそれぞれの道を歩んで来た。 だがそれでも自分は、なのはの支えとなろうと努力してきた。 なのはの支えになる…その想いは昔も、今も、そして未来も変わらない、 二人の絆が消える事は無い、寧ろ堅く結ばれていくのを感じている。 そして照れ臭さそうな笑みを浮かべ更に話を続けるユーノ。 「それに…ヴィヴィオには男親も必要だと思うし……」 そんな事を口走ると今度はなのはから目線を逸らし俯くユーノ、自分はヴィヴィオを盾にして告白する破廉恥な男と感じ恥じていたのだ。 そんなユーノの態度になのはは笑顔で、そんなことは無い…ユーノはヴィヴィオの為を思って言ってくれた言葉であると理解を示し、 更に顔を真っ赤に染め小さく頷くと意を決したように話し出す。 「ユーノ君…私を“女”にして」 そう言うなのはの顔は真っ赤に染まったままだが、その目は真剣そのものである。 レザードの話ではないが、自分は母親になる前にユーノの“女”になりたいと望んでいる。 その言葉にユーノは無言になるが、その目にはなのはと同じく真剣そのものであった。 その目を見たなのはは目をゆっくり閉じると、ユーノは優しく答えるように、なのはの肩を抱き締め 唇を重ね合わせ、二人だけの夜が始まり更けて行くのであった。 夜が明けた次の日、聖王教会によって割与えられた部屋のベッドの上には上半身裸のユーノのが寝ており、その近くではなのはが制服に着替えていた。 すると着替える音に気が付いたユーノが上半身を起こすと、それに気が付いたなのはが目を合わせる。 「あっ起こしちゃった?“ユーノ”」 「ううん、今起きようと思っていたところだよ、なのは」 二人は軽く挨拶を交わすと頬を赤く染め上げるユーノ、どうやら昨晩のことを思い出していたようである。 すると着替え終わったなのはが入り口に向かうとユーノに目を向ける。 「それじゃあ、行ってきます、ユーノ」 「うん、いってらっしゃい、なのは」 二人は挨拶を交わしなのはは部屋を出る、そして凛とした態度で集合場所に向かうのであった。 集合場所にははやてを中心にフェイト、シグナム、ヴィータ、ザフィーラ、シャマルに スバル、ティアナ、エリオ、キャロとフリードリヒが並び立っていた。 そして道案内にユーノの秘書を勤めているメルティーナの姿も見受けられた。 「なのはも来た事やし、いっちょ行ってみますか!!」 「うん!行こう、セラフィックゲートに!!」 なのはの合図に全員は気合いを込めて返事をし、いざセラフィックゲートへと続く空洞へと向かうのであった。 その道中、先頭を歩くメルティーナに続き、はやてとフェイト、少し離れた位置になのはの姿があり、二人はなのはの印象が変わったように見えていた。 いつものような優しい顔だけではなく、ふと見せる凜とした大人の顔が垣間取れていたのだ。 たった一晩で一体なのはに何が起きたのか?…二人は首を傾げていた。 「なのは、昨晩何かあったのかな?」 「さぁ?分からんなぁ~」 「彼女はきっと“女”になったのよ」 二人のヒソヒソ話に耳を傾けていたメルティーナが二人の疑問に答える。 その答えにはやてはニンマリと不気味な…イヤらしい笑みを浮かべ、フェイトはキョトンとした表情を表していた。 メルティーナの“女”の勘では、恐らく相手は十中八九ユーノであろうと小声で話す。 はやては、そんな面白い事があったのなら、なのはの後をついて行けば良かった…と冗談混じりに考えるが、 ディバインバスターにて吹き飛ばされるのは必至と考え身震いを起こし自分の考えを自重する。 そして戻って来れたら色々な意味で祝杯として、はやて直々に赤飯を炊こうと考えるのであった。 それから数時間、道なりに歩き目的の場所である空洞へと赴く一同。 空洞は広く天井も50mはあると思われる程に高く、地面には巨大な魔法陣が描かれており、資料と全く同じ作りをしていた。 「それじゃ、私は帰るわ、後はがんばって」 そう淡白にメルティーナは挨拶を交わすと、そそくさと地上へと戻って行く。 そして一同が残されると、先手をとってなのはが魔法陣に踏み込む。 それを皮切りに次々と魔法陣に踏み込みちょうど中央に集まると、 三角形が一ずつ光り出し、最後に円が輝き出すと周りは白い光に覆われ始める。 「いよいよやな!みんなぁ、気ぃ引き締めていくでぇ!!」 はやての掛け声に一同は気合いを込めて返事をすると扉が起動、 機動六課フォワード陣は光に包まれ、この世界から消え去り神が住まう世界、セラフィックゲートへと向かうのであった…… 前へ 目次へ 次へ
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友人にインチキ臭いとまで言われた男は人目を避けてアクロバッターを走らせていた。 シャーリーが用意したコースは完璧に近く、雰囲気のある店の付近を目指して人目につかずに走れるコースだった。 久しぶりに再会した相棒と走る心地よさを堪能するには、背中にしがみつくフェイトは邪魔になったが概ね満足だ。 多少RXの好みから離れてしまうのは、初めてお願いしたのだから仕方がない。 ウーノのようには、いかない。 覚えのある道を走った時に浮かぶ不満を隠すようにRXは速度を緩めずにコーナーを曲がっていった。 バイクの後ろに乗るのは魔法で飛んだり、車の運転するのとは違うらしく、まだ慣れていないフェイトは強くしがみついた。 どうにか慣れる頃に目的地に着くと、今度はフェイトの先導で二人は歩き出した。 廃棄区画に近いその場所は薄暗く、街灯に照らされていない道が幾つもあった。 「アクロバッターが荒いっていうのわかったような気がします」 「そ、そうかい?」 後ろからそれ見ろと言わんばかりのエンジン音が聞こえ、人間の姿に戻った光太郎がそれを咎めた。 アクロバッターには全く反省した様子がなかったが。 亀裂が走り、何処かから転がってきた建材の破片が転がる道を、二人は場所を確認しながら店に向かっていった。 人間の姿に戻った光太郎は、地球ではほぼ常に、制服のように着ていた白いジャケットではなくウーノらが用意して数年着続けているスーツ。 落ち着いた色合いで、手袋だけが明るい色の皮で出来ていた。 アクロバッターに乗っている間は変身していたので、パンツに皺が寄ることもなかった。 フェイトの方はちょっとばかりカウガールっぽかった。 細めのジーンズにウエスタン風のシャツ、皮の靴とベルト……ベルトの色の方が、靴よりも濃い色をしていた。 プライベートな時間には大抵スカートを履くのだが、光太郎がバイクに乗るので、一つ二つ用意してあったらしい。 ウエスタンシャツの間から見えるシャツの可愛らしいキャラクターと、鎖骨から首のラインは照明に照らされれば如何に光太郎でもグッと来る可能性はあるように見えた。 二人は、場所からしてないとは思われるが、ラフな格好では断られる店だったとしても光太郎の格好でどうにか、と考えていた。 程なくして場所を教えられているフェイトは足を止め、少し焦りながら周囲に目をやった。 「あれ?」 「どうかしたのか?」 「いえ……シャーリーが教えてくれたのはここなんですけど」 フェイトが示したのは、古いらしく微かにオレンジがかった照明の点灯した店。 店内から音楽が外へ漏れ、二人のところまで届いていた。 店内へと入っていく通路には何枚もの張り紙がされ、ずっと前に剥がされたものの残りがへばりついているのが目についた。 清潔な印象を与えるような色は見えず、年季の入った木製の扉には目に見えて傷が付いていた。 これまで殆ど入った経験がないらしく、フェイトは戸惑いを隠せないようだった。 光太郎は、フェイトに一度間違いないことを確認してから店内へ入っていく。 フェイトもそれについて入っていく。 温かみと艶のある木製のテーブルと椅子が二組あって、片方では白いテーブルクロスの上に並べられた料理に舌包みを打つ年かさの行った男女が数人いた。 音楽は店の奥から流れてきているようだった。 一人でウェイターも兼ねているというシェフが奥から姿を見せ、残ったもう一つのテーブルの椅子を引いた。 男性客がさり気なく入ってきた二人の顔を見て、一瞬驚いたような表情をする。 フェイトがそれに気づいたが、光太郎は気づいているのかいないのかさっさと席に座ってしまった。 グルメとはとても言えない二人であったから、シェフの勧めるままに料理を幾つか注文して他愛ない話をする。 シャーリーが調べ勧めてくれたことはあり、直ぐに運ばれてきた料理はどれも美味で、口に入れた二人が驚くほど二人の好みにも一致していた。 シェフの勧めるままに酒も口にする。 光太郎は直ぐに消化してしまうし、フェイトも飲むような習慣がなかったので普段なら口にしないものだが、店の雰囲気とシェフの柔らかい態度に少し飲んでみようと言う気にさせられた。 気を良くした二人の話は盛り上がった。 地球で言うとフェイトはまだお酒を嗜む年齢ではなかったが、こちらではそうではないらしい……光太郎は気になったが、口にはしなかった。 アクロバッターが戻ったばかりであったし、本人が希望したとはいえエリオとキャロが管理局に入ったことにヴィヴィオを暫く預かることになったお陰で話題にも事欠かなかった。 デート中にするような話ではないだろうと、隣の席に座っていた老婆からどこか見覚えのある呆れたような視線を向けられたが、どう扱おうかと今から心配しているらしいフェイトの相談に光太郎は知恵を絞る。 だが料理も殆ど食べ終えた頃になって、フェイトがパッタリと口を閉じた。 そこそこ話し終えていたが、別の話をするでもなく黙ってしまったフェイトを光太郎は不思議そうに見る。 「どうかしたのか?」 「い、いえ……一つ、お願いしようと思ってたことがあるのを思い出して」 「なんだ?」 「光太郎さんからまだ……す、好きって、言ってもらったことありません」 「そ、そうだったっけ? おっかしいなぁ……」 年甲斐もなく狼狽する光太郎に、フェイトは少し返事を返されるのが怖がっているようだった。 それを見て、光太郎の表情は真剣味を帯びていった。 「だから、出来たらでいいんですけど言って」「すまない」 険しい表情で直ぐに、返事が返される。 光太郎は一瞬、どこか遠くを見たようだった。 「……どうして言ってくれないんですか? 私のことやっぱ」 「もう少し時間をくれ。今は君の求めている言葉は言えない」 「そう、ですか。や」 「違う!! 俺は、言いたいと思っている。だけど俺は……!!」 落胆するフェイトに光太郎は身を乗り出して、叫ぶように言った。 驚いたフェイトに目の奥に火花を散らせたような鋭い眼差しを向ける。 「……思ってもいなかったんだ。だが、まだ俺はウーノのことを忘れていないんだ。だから、待って欲しい……無理にとは、言えないが」 「……わかりました」 少し間を置いて、フェイトがポツリと返事を返した。 「わかりましたから……ありがとうございます」 フェイトの返事を不思議に思って怪訝そうな顔をする光太郎の手をフェイトが握った。 そして、会計をして二人で出て行く。 望む返事を返すことが出来なかった光太郎は、気が咎めてすっきりとした表情とは言えなかったが、 フェイトの方は、然程気にした様子もなくどこか満足げだった。 それを見送った後、隣でそんな会話を聞かされる羽目になった客達は、ISを解いた。 シルバーカーテンで姉妹皆の姿を偽装していたクアットロが、ニヤニヤしながらウーノを見る。 皆ナンバーズに支給されるボディスーツではなく普通の服装をしていた。 ボディスーツの上から普通の服を着ているものもいて、ウーノらに咎められたが。 「何かしら?」 「いいえ、私の復活祝にウーノ姉さまが用意してくれたイベントなのかなぁって」 「まさか」 うっすら笑みを見せながらウーノが言い返す。 だがフォークをチラつかせるウーノに妹たちの誰かが喉を鳴らした。 「私と来た店だって言わなくってとっても安心したわ」 「余裕ですかぁ?」 入店してきた時はヒヤッとさせられたが、どうやら流石の光太郎も変身していない状態の体では、シルバーカーテンによる偽装を見破れないらしい。 それがわかったクアットロは調子に乗っていた。シェフも光太郎のことを覚えていたが、空気を読んでいた。 この世界では姿を変えるくらい簡単……とは言わないが、ワケありの人間達の間ではそれなりに行われる行為だった。 「止せ。クアットロ」 「チンクちゃんったら、貴方だってちょっとは気になってるくせに」 「そ、そんなことはない!! クアットロ、そういうところがセッテを怒らせたんだから少しは自重してくれ」 「……つまんなぁい」 チンクに言われ、悪態をつくクアットロはメガネをしていなかった。 セッテに殴りつけられて瀕死に陥った際にレンズの破片で痛い目を見たので、付けなくなっていた。 拳の当たった場所から放射状に、角の多い星か花びらの多い花のような傷跡が残っている。 スカリエッティがわざと残したそれをクアットロは撫でた。 その仕草に、皆微かに表情を変える。 だが、可哀想と感じているらしいのは姉妹の中でも半分ほどだと言うことが、それでわかった。 「私、ドクターのところを出ていくことにきめましたわ」 「いきなり何を言っている!? セッテのことは……確かにやりすぎだが、ドクターも」 突然の発言に驚く姉妹たちの中で、チンクが最初に立ち上がった。 ため息を付いたウーノがクアットロに眼差しを向けると、傷跡の端へ指を滑らせながらクアットロは説明する。 「私のこと嫌ってる子もいるみたいだし、私も好きにやらせてもらおうと思って」 そう言った顔はいつもの茶化すような表情で、本気で言っているのかどうか余人には判断出来かねる態度だった。 姉妹たちも何人かはクアットロのことがわからないと言った顔で、仲の良い姉の方を伺うように見る。 「……いいわ。何を持って行く気?」 だがどういったつもりであろうと、資材については強い権限を持つウーノの一言で判断は下ったようだ。 「さっすがウーノ姉さま。ガジェットを頂いていきますから、心配は御無用です」 「全部はダメよ? ドクターが祭りの日に使いたいらしいわ」 「はい!」 素直な返事を返したクアットロが、全体の実に八割に及ぶ機体を持ち去ったのはこれから数日後のこと。 完全に自動的に作成されるガジェットの生産数を増やすことは出来ず、かといって祭りの日までに必要数を作成することも出来ないのは明白で、 意外なアクシデントに頭を抱えるウーノと、寧ろ面白くなってきたらしい高笑いをするスカリエッティがガランとした格納庫に残された。 前へ 目次へ 次へ